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第35回 くすりの上田(有限会社上田薬局)  

第35回 くすりの上田(有限会社上田薬局)
 ドラッグストアが林立する時に
 町の薬屋さんが元気なわけは…

外観は商店街にある普通の薬屋さん。横の植え込みの奥50mほどのところに高岡大仏が鎮座まします。
 高岡大和より、御旅屋(おたや)通りを東に約300m。日本三大仏のひとつ、高岡大仏が御座(おわ)します。その大仏つぁんを背に、今回うかがったお店・くすりの上田がある。
 昔ながらの、商店街によくある薬屋さんだ。通りから店の中をうかがうと、編集子がよく行く自宅近くのドラッグストアと商品構成が違う。というより商品アイテムは少なく、薬も漢方系が多いようだ。また病院の近くによくある調剤薬局とも違う。「調剤承ります」の看板も幟(のぼり)もない。
 薬屋さんであるのは間違いない。しかし商品アイテムが少ないところから、これで大丈夫なのか、と他人事ながら心配になってくる。大仏つぁんのご利益(念力)によって、商品が売れているのか。それとも店主の才覚によって、千客万来・商売繁盛なのか。そんな疑問を抱きながら、お店にうかがった。

経営は安定していたが、路線転換

カウンター周辺の様子。同店で扱っている薬の種類はこの写真に8~9割方は写っている。
 「ようこそ、今日はよろしくお願いします」
 人懐っこい笑顔の上田康晴さんがカウンター越しに迎えてくれた。創業は1951(昭和26)年。人に例えるならば店は今年還暦を迎え、祖父の代から三代続いて薬剤師の資格をとった珍しいお店だ。
 この60年、お店はさまざまな歴史を刻んできた。特にドラッグストアが伸長し(1997年の化粧品・医薬品再販制度の自由化により増え始めた)、また医薬分業により調剤薬局が徐々に浸透し、2009年の改正薬事法によってスーパー等が一般医薬品を販売することが可能になったことが、歴史に深みを出してきた。こうした制度の変更等は、町の薬屋さんには時には追い風、時には向い風になってきたわけだ。
 「大学を卒業してから1年だけ病院の薬局に入り、その後でこの店を手伝うようになりました。今から14年前のことです。県内でもドラッグストアが出始めており、それから7、8年した時には多店舗展開するドラッグストアが林立し、私どものような個店は、お店のあり方について真剣に考えなければならなくなりました」
 今でこそ、にこやかに当時を振り返る上田さんだが、その頃は「とてもそんな余裕もなかった」という。お客の数は目に見えて減り、売上げもガクンと落ちた。極端にいうと、店の存亡が問われるような状態だ。商品構成は、ドラッグストアと同じく西洋薬がメイン。ただし、個店ではスケールメリットを生かした仕入れができないため、多店舗展開するドラッグストアに比べて小売価格は高く、品数も少なかった。これでは同じ土俵に上がっても勝負にならないことはいうまでもない。
 では調剤をメインにして、一般薬の販売も並行して行えば…、と3年ほど前まで上田さんはこのスタイルを店に取り入れ、熱心に調剤にも取り組んだ。
 「ところが、どうもスッキリしないのです。医師の処方に従って調剤しているだけで、薬剤師としての自分の意見はどこにも生かされず、達成感がなんにもない。これでいいのかと悶々としました。そしていろいろ悩んだ末に、調剤薬局としての業務をやめることにしたのです」(上田さん)
 仄聞(そくぶん)するところによると、同店の近くに大きな病院はないものの、調剤薬局として食べていくだけの利益は出ていたという。
 ところが、それを敢えて止めたのである。


どこにでもある商品を並べるか、それとも…

このご婦人の相談内容は「冷え性」でした。
 「私のような悩みを持った町の薬屋さんは、全国にもあります。その方々と情報交換し、また、先行して別な形で薬屋としての営業スタイルを確立しているお店の意見もうかがいました」
 お店の方向転換は、並み大抵の決心ではなかったはず。事は経営の柱、ある意味では店の戦略を決めることだ。調剤薬局に疑問を持ち始め、自分の目ざす薬屋の答を出し、実行に移すまでに2~3年ほどかかったという。この間、ビジネス・経営関連の本をむさぼるように読み、また講演会・セミナーにも積極的に足を運んだそうだ。
 「ある本で読んだことです。『ウチの店にはいろんな商品がおいてあります。でも、どこにでもあるようなもので、大した商品はありません、という店と、ウチにはAとBの2つの商品しかありません。しかし、この2つは自信をもってお勧めできる商品です、という店がある。お客様に選ばれるお店にしよう…』というような、おおよその内容でした。店のあり方を真剣に考えていた時でしたから、心に響きました。要は、私自身が働きがいを感じて、お客様に選ばれる店になることです。アイテム数でしたら、お客様はウチの店ではなくドラッグストアを選び、最終的に店はやっていけない。調剤薬局では店の経営はやっていけるけど、充実感が持てない。そうやって詰めて、相談薬局のスタイルなら薬剤師としての専門性を生かし、また働きがいも感じながら店を維持できるのではないかと思ったのです」(上田さん)
 調剤をまったく残さなかったのは、「調剤薬局」として営業を続けている限り、近隣の病院から薬の処方箋が逐次FAXで流れてきて、それを尻目に、お客さんの相談にゆっくりのることができないから、だという。上田さんのいう「相談」とは、カウンター越しの数分の立ち話ではなく、腰を落ち着けて1時間あるいは1時間半程度、じっくり話を聞いてアドバイスすることであった。
 当然ながら、この方向転換により従来の顧客の大半を失うことになる。またその結果、新規の顧客開拓に取り組まなければならないわけだが、それは“決心”した時に折り込み済みのことだった。


広告を細かく検証して、より効果あるものに

 では上田さんは、自信をもって勧め、お客様から選ばれる(あるいは喜ばれる)A、B…をいかに定め、それをどのように告知して新規の顧客を開拓していったのか…。
 相談薬局にもいろいろあって、まず私は不妊とアトピーに特化し、その専門性を高めることを心がけました。不妊は、相談者に赤ちゃんができたら私もハッピーになれて充実感を持てる。アトピーはかつて自分の子どもがアトピーで悩んだ経験があったからです」(上田さん)
 不妊、アトピーに悩む方は多い。中には、病院をいくつも梯子(はしご)する方も多いと聞く。いずれも食事の内容や生活スタイルとも密接に関連するため、対処療法だけではなくそちらの指導もしてもらいたいと患者さんは思っているようだが、そのアドバイスがないため病院を梯子するようになっているようだ。
 上田さんはそのあたりの事情も踏まえ、病気にならない体質づくりをコアにアドバイスし、状況によっては漢方薬を勧めることに。そして地元のタウン誌(4誌)に広告を出し、新規の顧客開拓を目指した。
 広告は出しっ放しにはしなかった。店の生き残りをかけているから当然といえば当然であるが、広告を出すたびにその反応を検証。そして次回の広告ではキャッチフレーズを変える、キャッチフレーズは同じでも文字の色を変える、デザインを変えるなど、反応の良し悪しを踏まえながら次回の広告を企画してきたのである。
 また同じ頃(平成19年)、当機構の専門家派遣制度を利用して、ITの専門家の指導を受けながら自店のホームページを開設。紙面に限りのある広告では、告知する内容にも限度があるため、ホームページでは広告を補うような形でのお店の宣伝に努めた。
最近のタウン誌に出した広告の事例。同じ趣旨の広告でも、表現を変えて出している。


うえだ流の相談薬局が開花

お客様からのアンケートの回答。ホームページ上にたくさん紹介されているので、そちらをご参照を!
 「ホームページでは、不妊相談の結果、赤ちゃんをさずかったご夫婦の感想も載せたりしながら、お店や相談の雰囲気がわかるようにしています」(上田さん)
 実際にホームページを見てみた。お店や相談内容の紹介の他に、自身の娘さんのアトピーを治すべく有名な皮膚科を訪ねながらも「この病気とは一生つき合わないといけない」と突き放されたこと。そこから奮起してアトピーを勉強し、試行錯誤していくうちにある方法で改善に向かい始め、相談のあったお客様にも紹介したところ同じく快方に向かった話。不妊相談では愛知県の女性が「人工受精や体外受精も試みても結果が出なかったが、ここでの相談の後で妊娠した…」と直筆のアンケートの回答が紹介されるなど、読んでいて引き込まれる構成となっている。
 えっ、愛知県からもお客さんが来ているの? これこそ大仏つぁんのご利益か…と読者の方は思うかもしれない。
 この方は仕事で高岡に来ていた折に、たまたまお店の前を通って「子宝相談」の文字を見かけた。7年間地元の病院に通っても効果が出ず、大仏前のお店で子宝相談の文字を見たのも何かのご縁と感じ、ワラにもすがる思いで来店されたのだそうだ。
 前述のように不妊で悩んでいる方は極めて多く、上田さんによると、同店の不妊相談は月平均30件。1件当たり1時間~1時間半じっくりと話を聞き、体質の改善等のアドバイスとともに、お客さんの状況に合った漢方薬を勧めている。この際の相談料は無料で、上田さんが勧める漢方薬を購入する・しないも自由だ。
 「相談を始めて最初のうちは、“ぜひ漢方薬を買って”と妙に力が入っていました。力が入るとお客さんも構えてしまって…。ところが最近はそれがなくなりました。力が入らなくなると、漢方薬が売れるようになり、また赤ちゃんができたという報告もたくさん入るようになったのです。おかげさまで仕事は楽しく、お店の経営も安定してきました。私はすごく贅沢な商売の仕方をしているのかもしれません…」(上田さん)
 取材中、3人のお客様が来店され、滋養強壮や冷え性改善など、それぞれに長く使い続けていると思われる漢方薬を買っていかれた。上田さんとのやり取りの様子から、いずれもリピート客のようで、買上げの代金も1万円は越えていたようだ。
 「客単価は今のお客さんくらいが平均?」と尋ねると、上田さんはにっこりとうなずいた。上田さんの、余裕の一端を垣間見たようだ。  


「10年後は、その時のAとBを企画します」

同店のホームページ。現在アップされているものは2年前にリニューアルしたもの。
 どこにでもある商品で、「値段で勝負」でお客様を引きつける場合は、何千人、何万人の支持を得ないとお店は成り立たない。競争は熾烈で、競合店との価格競争に打ち勝つためには、仕入れの共同化や系列化に近い合従連衡が繰り返し行われる。チェーン展開するドラッグストアといえども、立地によっては閉店に追い込まれるお店もあるようだ。またドラッグストア間の競争の煽りを受けて、変化についていけない町の薬屋さんは廃業に追い込まれてもきた。
 ところが「商品の魅力で勝負」「店(店主)の魅力で勝負」してきたお店は、その何分の一、何十分の一の数のお客様に支持されるだけで経営が安定するわけだ。これは何も薬屋さんに限ったことではないが、あまり活気のない商店街のはずれで、元気にお店を続けている上田さんに会って、経営の原点を思い起こさせてもらったようだ。
 「薬の販売を取り巻く環境は、数年毎に変わっていますので、今のやり方が10年後にも通用するかどうかはわかりません。その時はまた、当店なりのAとBを企画し、お客様に選ばれるようにしたらいいわけです」
 上田さんは極めてポジティブだ。経営関係の本を今も毎月10冊は読むよう心がけ、当機構が事務局を務めている「ネットビジネス道場とやま」には平成20年度、22年度に参加。ホームページの経営上の生かし方を企業の実例を交えて研究し、またホームページを経営に生かしている企業家との情報交換にも余念がない。こうしたことが相乗効果を発揮して、お店を元気にしているのだろう。
 ちなみに、ほとんど宣伝されていないが、同店には隠れたヒット商品がある。それは二日酔い防止のオリジナル調合の漢方薬。口コミによって広がり、噂を聞きつけた宴会参加予定者・女子会参加予定者が、人数分まとめて買っていくケースもある様子。これなどは、売上げ改善に効く薬といっていいのかもしれない。

専門家派遣制度について
http://www.tonio.or.jp/sodan/keiei.html

ネットビジネス道場とやま等のセミナー・講座について
http://www.tonio.or.jp/joho/semi2011/index.shtml


くすりの上田(有限会社上田薬局)
本  社/高岡市大手町11-30(TEL0766-22-1301 FAX0766-22-1353)
事業内容/相談薬局
資本金 /300万円
従業員 /1名
URL/http://www.kusuri-ueda.jp/
作成日2011.07.01
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