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[第30回]株式会社サンエツ  

[第30回]株式会社サンエツ
「贈り物は文化」。単に物を売るのではなく
 文化や習慣を踏まえて提案

サンエツ本店での板川信夫社長。「富山県内にはあと数店舗出店できるでしょうが、それは、もう少し若手社員を鍛え、育ててからのお楽しみ…」と意欲的でした。
 2年前の9月、ギフト業界が揺れた。業界大手のS社が上場を廃止し、Uグループの傘下に入ったからだ。その半年前の決算(07年3月期)では、700億円を上回る売上げを立てていたにもかかわらず、減少傾向にあった様子。当時の新聞を振り返ると、数年の間で20%近い落ち込みがあったと盛んに報じていた。
 業界では、これは同社に限ったことではない。「虚礼廃止」が広がる中で、お歳暮やお中元、冠婚葬祭などの儀礼的なギフトが減っているのは、生活感覚でもわかるだろう。大都市では、いわゆる葬儀を身内だけで簡単に済ます「家族葬」が増えているし、景気後退が追い討ちをかけ、法人需要のギフトも極端に減っているようだ。
 ギフトについては公的な統計がなく、市場規模は把握しにくい。ある民間の経済研究所では、ギフトの市場規模は17兆円程度。別な調査では個人が支出するギフトの総額は、7.5兆円程度(法人需要は含まれない)と見ている。ただしこれらは、あくまでも推計値である。
 「統計が取りにくいのは、どんな商品も使い方次第でギフトになり、またどこでも販売しているからです。業界団体はありませんし、ギフト業という産業分類もありません。我々業界の仲間の話を総合すると、ここ4、5年、減少傾向にあるのは事実です。特に昨年、今年の落ち込みがひどい。景気後退によって暗い影が忍び寄っています。倒産・廃業する同業者もあるようですが…」とサンエツの板川信夫社長は語るものの、氏の表情は明るい。
 同社も、昨年、今年と売上げは伸び悩んでいる。創業以来36年経つが、最近の2年を除いた34年は連続して売上げを伸ばし続けており、100年に1度の不景気をチャンスと捉え、大きな変化をし、工夫をすれば必ず道は拓ける、との思いから明るくしておれる様子。今回うかがったギフトのサンエツでは、最近のギフトの事情や業界の動向とともに、対前年比で34年間売上げを伸ばし続けた秘訣などをうかがった。

中学生の時から家業を手伝った

 創業は昭和49(1974)年。オイルショックの爪痕がまだ残っている時だ。菓子問屋の専務を務めていた板川社長の父親が、独立してギフト商品の販売に乗り出した時に始まる。ギフト商品といっても、名入れタオルや店名入りのマッチ、ティッシュ、ラップ、アルミホイル…等々。客先はすべて法人で、それらが顧客サービスの一環として配る、粗品・おまけ商品を扱っていた。
 店は小さく、民家を改造したものだった。一部の商品を展示してはいたものの、すべてが外商であったため、客先が来店することはほとんどない。仕事を持ち帰って、袋詰めの夜なべ作業をすることもしばしばで、そういう両親の背中を見て育ってきた。
 「創業時、私は中学2年生でした。配達がたくさんある時はクラブ活動を早く切り上げて、親父が運転する車の助手席に座って、一緒に納品に行ったものです。今から振り返ると、親父はうまく私を商売に巻き込んだ。『商売を継げ…』とは一言もいわれたことがありませんが、自然と意識づけられたようです」
 36年前を板川社長は昨日のように思い出す。そして後に東京都立商科短大(現首都大学東京)を卒業して、迷うことなく東京に本社があるギフト会社に就職。都内のホテルや斎場などを主な客先として、冠婚葬祭で扱う商品の営業をしながら修業し、富山に帰ったのは昭和57(1982)年であった。
 「東京から帰ってくると、親父は私に店を任せるようになりました。ところがどうも仕事に達成感がない。法人向けギフトは、4~5社の入札によって仕入れ先が決まるのですが、提案(商品)の中身よりは値段が優先されていたので、モチベーションはなかなか上がりませんでした。一方、当時本店は40坪ほどで、店の前を走る8号線もまだ『バイパス』といわれて、周辺の整備が徐々に進んでいる時でしたが、個人のお客さんが徐々に増えて、売上げも少しずつ確保できるようになったのです。それで、いつまでも法人向けにこだわっていても無理があると思い、少しずつ個人を対象にした店頭売りに力を入れることにしたのです」

サンエツ本店(富山市)と小杉店の内部。店内からはサーティワンアイスクリームのお店へ行けるようになっているが、ギフト専門店がアイスクリームのお店を併設しているわけは本文で…。


ブライダルに力を入れた

板川社長自身がデザインされた包装紙
 板川社長が店頭売りで力を入れたのは、冠婚葬祭、特に結婚を中心としたギフトであった。タイミングよくこの年(昭和57年)の秋に、あるホテルチェーンの富山店がオープン。そのブライダル部門の指定業者を決めるプレゼンテーションに参加し、デパート等との競合相手と一緒に指名を受けた。またこれを機に、他のホテルのブライダル指定業者となるよう積極的にセールスプロモーションをかけたのである。
 幸い、いくつものホテルから指定業者の指名を受けた。ホテル内にショールームを構え、そのホテルで結婚式を挙げるカップルの過半数以上から受注。本店ショールームのブライダル関連のコーナーも充実して、相乗効果を期待した。年度によって多少の増減はあるものの、富山県内では年間約5,000件の結婚式がある。サンエツはそのうち800~900件を受注するまでになり、BtoBからBtoCへと販売スタイルを変えていったのであった。
 ではなぜ、板川社長はブライダルに着目したのか。そのあたりを尋ねると、
 「贈り物というのは、人の一生の行事にかかわっている。結婚式の場合、そこでお客様との接点ができれば、数年後には出産のお祝や宮参り、そして七五三、入園・入学、新築、さらには還暦・喜寿・米寿・白寿まで長いお付き合いが可能になるから」
 と答えが返ってきた。
 個人向けの売上げ比率がどんどん高くなると、40坪の店では手狭になってきた。そこで平成元年(1989)年には約100坪に拡充。また社長就任1年後の平成9年には富山南店、同14(2002)年には小杉店を構え、「県内であと数店舗出したい」という希望を持つまでに。そのためのスタッフ教育に熱くなっているのが今日の状況だ。
 
それを使った包装見本。熨斗紙もいろいろ工夫されている。


ギフト専門店にアイスクリームの店を併設して…

 同社はまたサーティワンアイスクリームのお店を3店舗展開。1店はショッピングセンターにテナントとして出店し、他の2店は本店・小杉店に併設。ギフトとアイスの組み合せが、意外と相乗効果を発揮しているようだ。
 「アイスのお客様は40歳くらいまで、ギフトのお客様は40歳以上からが大きな傾向。年齢層の違うお客を一緒にしたら面白いのではないかと思い始めました。アイスの平日の来店数は100~200人、週末になると500~600人になります。一方のギフトは、平日は30~50組、週末に50~100組。アイスを買いに来られた若いお客様が、時々ギフトのコーナーも見学されていきますので、その方の生活シーンの中でご利用いただく機会があると期待しています。一方、ギフトの相談が終わられた方が、お孫さんや子ども用にお土産としてアイスを買っていかれる。こちらはハッキリと効果が出ています」
 板川社長によれば、サーティワン全店の平均客単価は600~700円。これに対してサンエツのギフト併設店のサーティワンでは、千数百円。お祝の花束を勧める感覚で「アイスも喜ばれますよ」と提案すると、プレゼント用にもう一品追加されるケースが多いという。
 「サーティワンのチェーン店は1,000店近くありますが、当店の客単価は5本の指に入っています。また当社のギフトとアイスが相乗効果を発揮している様子を見て、ギフト業者の中からサーティワンアイスクリームと契約を結ぶところが現れ、今のところ5社になりました」
 と板川社長は溶けてしまいそうな笑顔を浮かべた。
 


背景の文化や習慣を踏まえて

人気の似顔絵を紹介するコーナー。描く人数によって料金は違ってくる。お申し込みは、写真を添えて。
 一口にギフトといっても、商品の多様化が進んでいる。高級旅館やホテルが利用できる旅行券は今では珍しくなくなり、観劇やライブハウスの招待券、カルチャースクール等の受講券、人間ドッグなどの医療サービスやハウスクリーニングなどの家事サービスの利用券もギフト商品としてお目見えしているようだ。
 こうした状況の中で、サンエツでは昨年夏から似顔絵をギフト商品に加えた。子どもや孫が祖父母の還暦や喜寿・米寿のお祝いの品とともに、祖父母を囲んで家族みんなが笑顔で集っている似顔絵を贈るケース、また結婚を控えたカップルが2人の似顔絵を披露宴の招待状や式当日のウェルカムボードに使うケース、結婚式に贈呈する花束の中に両親の似顔絵をしのばせるケースなど、その使い方も多様化しているようだ。
地元ラジオ局(KNB)で14年間続いている「おくりもの専門学園」に寄せられた質問に、板川社長が回答やアドバイスをまとめて本にしたもの。店頭で販売中。
  「当初は、週に2~3枚依頼されていたのですが、最近は30枚近くにまで増えています。ここまで行くとは思っていませんでした。似顔絵は喜ばれます。何より楽しい想い出として残るから、ご利用していただくお客様が増えているのだと思います」と板川社長はにっこり。「贈り物は人とのつながりを太くしますから、これからもアイデアを出して、新しいギフトを生み出していきたい。ものを贈るのは、人間ならではの文化です」と意欲満々の言葉を続けた。
 「贈り物は文化」と板川社長は何度も強調したが、贈り物の意義を改めて見直そうと、この9月には「日本贈答文化協会」が設立され、氏はその理事長に就任。1年の準備期間を経て、全国のギフト専門店が集まっての船出であった。
  「私が地元のラジオ番組で贈り物のQ&Aのコーナーを14年間続けてきたことが評価されて、代表に推薦されたのです。ギフトは単にものを贈るのではなく、贈るという行為全体から成ります。そこには贈り主の気持ちがあり、地域の文化や社会的な背景もある。ギフトを通して、もっと理解し合える人間関係ができたら…。贈答文化協会は単なる業界団体になるのではなく、贈り物の文化を再考し、そのタネをみなさんにお届けできたらと思っています」
 理事長に就任した板川社長は、協会の役割等について抱負を語り、取材を締めくくった。
 ちなみに富山の女性が岡山県にお嫁に行く…、宮城県からお婿さんを迎える…など、都道府県を超えた贈り物にまつわる文化や習慣に関してご質問等がある場合、贈答文化協会に加盟するお店が相互に情報交換して、お答えいただけるようです。


板川信夫 株式会社サンエツ社長
本社/富山市豊城町13-54(TEL076-438-5858 FAX076-437-6024)
事業内容/冠婚葬祭の引出物、記念品、各種内祝、結納品
      などのギフト用品の販売ならびにギフトの相談
設立/1974(昭和49)年3月
資本金/3000万円
従業員/55人
URL/ http://www.sanetsu.com/
◎日本贈答文化協会のURL http://www.zoutou.net/
作成日2009.10.30
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