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[第28回]有限会社富山サイクリングセンター  

[第28回]有限会社富山サイクリングセンター
“自転車操業”とは無縁の自転車店
 北陸だけでなく、お客様は全国に

スポーツサイクルをメインに扱う「ローマン店」(富山店)。品ぞろえは北陸でも群を抜き、隣県から来店されるお客様も結構あるとか。
 のっけから不景気な話で申し訳ないが、“自転車操業”という言葉はご存じだろう。売上の回収と支払を、あたかも自転車のペダルを不断にこぎ続けるように、何とか事業の継続を図る状態。ペダルから足を離すと失速して自転車が倒れるように、事業も資金繰りに余裕がないために継続できなくなってしまう様子をいう。
 いわゆる“町の自転車店”の歴史は、この言葉を如実に表わしてきた。自転車店は「大儲けはできないけど、つぶれない」といわれてきたが、変化が現われたのは平成6(1994)年のこと。自転車の保有台数は、若干のブレはあるものの一貫して増えている半面、この年を境に店舗数が減り始めた(平成6年/17,724店→平成19年/11,467店)。またそれと並行して従業員数(同31,452人→21,212人)や年間販売額(同約1,947億円→約1,337億円)も減少。ホームセンター等での、1万円台の格安自転車(いわゆるママチャリ等)の出現は、それに追い討ちをかける形になった。(資料:「商業統計」(平成19年までの経年)、「自転車統計要覧第40版」)
 ちなみに前出の資料より、近年の自転車店の運営概要をいうと、全店舗のうち従業者1~2人のお店は約85%、3~4人では約11%。4人以下のお店が96%を占めている。年間売上も1~2人の事業所では平均600万円弱。3~4人の事業所では平均2,400万円程度。自転車1台の販売によってお店が得る収入は価格の30~40%(割り引き販売するともっと低い)というから、販売よりは修理によって店を続けているところが多いのではないか、と推測される。
 ところが今回訪問した富山サイクリングセンターは、“自転車操業”とは無縁のお店。景気の変動、自転車ブームとその反動など、経営環境は年ごとに変わっているものの、その影響をあまり受けずに発展してきた。さっそく上野茂社長を訪ね、その秘密をうかがった。

普通の自転車店から、ハンドメイドサイクル店へ

「自転車店でも従業員の社会保障をしっかりしたい」と十数年前に店を法人化した上野茂社長。
 創業は昭和元(1926)年。法人化したのは平成7(1995)年と十数年前のことだが、80年間一貫して自転車の販売・修理をしてきた。創業者(現社長の父親)の時代には、原付きバイクの販売・修理も行っていたが、40年ほど前から徐々に販売を少なくし始め、20年ほど前には完全にやめてしまった。
 「40年前、当時、私は20代半ばで、親父と2人でこれからは自動車の時代になるだろうと予想し、自動車販売業ヘの転換も考えました。しかしそのためには、車検のためのスペースが必要になってきます。店はウナギの寝床のように細長く、間口は2間半。自動車屋には最低でも間口4間は必要ですから、ここでは無理でした。といって、今までのお客さんを放り投げて、郊外で新たに商売を始めるのもためらわれました。ちょうどその頃、知り合いの同業者を訪ねたらスポーツサイクルを扱っていて、試しに乗ってみたら私がハマってしまったのです。それで親父に相談して、ウチの店でもスポーツサイクルを扱うようになったのです」(上野社長)
 以来、自らもスポーツサイクルを持った。そしてツーリングが趣味になり、大会には何度も参加。最近では夫人と2人でツールド能登やツールド沖縄などのサイクリング部門にエントリーし、楽しんで走っているというから仕事と趣味が一体になっているようなものだ。
 といって、スポーツサイクルの売上げが爆発的に増えたわけではない。何しろスポーツサイクルの価格は、最低でも一般車の5~10倍以上。初心者向けは10万円前後からあり、上は軽乗用車1台分(新車)と同じくらい。通学や買い物用の自転車を買うのとは、感覚がまったく違う。
フレーム、ホイールなど自分で選んでオリジナルの自転車ができる。ヘルメットやシューズなど、関連用品も豊富。

  “ママチャリ”しか知らない編集子にとっては、100万円を超える自転車は別世界のこと。取材を契機に調べてみると、中・高級のスポーツサイクルでは、ユーザーがフレーム、サドル、ハンドル、ペダル、タイヤ……と部品毎に選び、それを自転車店で組み立てて完成車にしていく。フレームの素材が鉄であった時代は(現在はアルミ、カーボンが主流)、ユーザーの体形(特に股下)や用途(レース用かサイクリング用か)に合わせて、フレームの切断・加工・溶接をしてオリジナルな自転車もつくっていたという。
 まさに、オーダーメイドのスーツをつくる感覚。富山サイクリングセンターでは、最近でこそ完成車を20~30台ほど展示するようになってきたものの、以前は1~2台の展示にとどめ、フレームだけでも50~60本を展示。年に数台はフレームの開発・製造から始め、独自の「ローマン」ブランドのフレームを持っていたというから、愛好者にとっては垂涎(すいぜん)の的のようなお店に育っていたのであった。
 ちなみにフレームの開発・製造もできる自転車店は、県内では当店のみ。近くでは福井県に1軒あるだけというから、エリア限定とはいえオンリーワンの自転車店ということだ。


売れ行きが鈍る冬季分を、ネット通販でカバー

お客様から依頼されての自転車の組み立ての様子。店内にある部品を組み立てて完成車にする場合は一両日でできるが、海外から部品を取り寄せたりする場合は、納車までに数カ月かかるそうだ。
 スポーツサイクルに限っていうと、昨今は第2次ブームのただ中にある。大都市圏のスポーツサイクル専門店では、前年同月比150%、170%という店も珍しくなく、極めて好調な売れ行きのようだ。ブームの背景には健康志向があり、昭和60年代(’80年代後半)の第1次ブームの時も飛ぶように売れたという。
 ただ第1次ブームの時、スポーツサイクルで売上げを伸ばしたお店に中には、その反動で苦しんだところもあった。在庫を抱え過ぎたのである。
 国産車にしても輸入車にしても、自転車は返品が効かない。またカタログや専門誌(紙)に該当の自転車が掲載されなくなると、旧モデルと化して売れ行きは極端に鈍ってしまう。ブームがまだ続くと見込んで過剰に仕入れたお店は、在庫を抱えて“自転車操業”を余儀なくされたわけだ。
 「ブームが来たといっても、当社の場合は10%くらい増えただけで、今もそう。というのは、当店は完成車の販売をメインにしているのではなく、部品をお客様に選んでいただいて、それを組み立てて販売しているからです。完成車は旧モデルと化すリスクが高い。ところが部品には急激なモデルチェンジがないため在庫のリスクが低く、また部品を組み立てて完成車をつくる場合には、新モデル・旧モデルがないのです」(上野社長)
コンピュータ関係の会社に勤めた経験があることから、お店では主にネット通販やホームページの更新などを担当されている祐子さん(社長の娘さん)。
  業界のそういう商流を踏まえて、同社ではネット上での通販も開始。自社のホームページの通販コーナーは、現在は休業状態(新企画を立案中)であるが、3年前には楽天に出店し、商圏を全国に広げた。
  ホームページの運用管理を担当する、娘さんの祐子さんがいう。
 「富山では、冬の4~5カ月はあまり自転車は売れませんので、ネット通販に着目しました。ただ、完成車の通販は、売りっぱなしになる可能性があり、これではメンテナンスを十分にしてあげて自転車を楽しんでいただきたいという社長の思いに反するので、部品に限って販売するようにしています。今のところ、自社のホームページでの通販は中断していますが、内容を一新し、メーカーの協力も取り付けて、近い将来、再開したい。とりあえず月100万円を目標にします」
 ホームページの企画については、当機構のセミナーを受講しながら内容を煮詰めているところで、ネット通販で評判のお店も熱心に研究している。


主に売れるのは20万円台の自転車

これが100万円を超える自転車。フレーム(車体中央のひし形部分)だけでも60~70万円する。車重は8kgもなく極めて軽い(ママチャリは一般的に13~15kg)。取材の後で試乗させていただいた。ペダルをこいだ時の推進力は、一般車の何倍も感じられた。
 工具等を持っている人の場合は、ネット通販等を利用して、1台分の部品を買いそろえ、自分で完成車に組み立てることもできる。工具がない場合や調整に技術を要する場合は、近くの自転車店に持ち込まなければいけない。かつての自転車店では、店主が職人肌であればあるほど、他店で買った自転車の組み立てやメンテナンスを避ける傾向にあったが、「それではいけない」といい、上野社長は続けた。
 「持ち込みが増えたのは、ネット通販の普及が大きな要因でしょう。ウチの店にも時々、部品一式を持ち込んで完成車にしてほしいというお客様がいます。私もツーリング、サイクリングの愛好者。お客様には自転車の楽しさを存分に味わっていただきたいので、単に組み立てるだけでなく、体格に合わせて調整もしてあげます。お客様に喜んでいただいてこそ、町の自転車店は店を続けられるのです」
 2代目とはいえ、80年以上にわたって店を続けてきた上野社長には、「町の自転車店はつぶれない」という言葉の上に胡座(あぐら)をかいている様子は微塵もない。職人の面子や目先の損得以上に、自転車を愛する仲間の間での「信用第一」を掲げて商売している様子がうかがえる。
 富山サイクリングセンターで、よく売れる自転車の価格帯は20万円台。40~50万円台の自転車を買い求めるお客様も時々あり、100万円を超える自転車も数台販売したことがあるという。また昨年暮からの予約が好調で、春までに準備して欲しいというオーダーが30~40台入っており、それも少しずつ増えている。「今までこんなに予約が入ったことはなかった」と上野社長はニコニコ顔だが、車種を特化して、独自のサービスを提供してきた結果、“自転車操業”とは無縁のお店になったようだ。


上野茂 有限会社富山サイクリングセンター社長
本社/富山市清水町4丁目4-2(TEL076-421-4688 FAX076-491-4743)
金沢店/金沢市もりの里3丁目19(TEL076-233-0210 FAX076-233-0212)
事業内容/スポーツサイクル用フレームの開発・製造・販売、
      スポーツサイクルおよびそのパーツ販売、自転車の整備・修理
設立/1995年1月(創業1926年12月)
資本金/300万円
従業員/5名
URL/ http://www.cycle-roman.com/
作成日2009.02.12
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