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[第26回]株式会社能作  

[第26回]株式会社能作
 1人の営業マンもおかずに販売網を拡大
 下請けからメーカー、ショップ開設と変身

 今回は銅器メーカーが取材対象の番外編。といっても売り方を探る上で参考になるお話がいっぱい。
 高岡銅器は400年の歴史を有し、その技術は現代の金属加工等に引き継がれてきた。ところが伝統的な銅器産業の世界では、ライフスタイルの変化に応じることができなかったなどの様々な要因が重なり、需要は極端に冷え込んでしまった。その有り様は動悸業界と揶揄(やゆ)されるほどだ。

「イタリア製ボウルと変わらない」

 ところが今回訪問した(株)能作は、銅器製造の下請けから脱却してメーカーになり、アンテナショップを持つまでに変身。また、数多くのセレクトショップやほとんどのデパートが、同社の商品を扱うまでになった。銅器業界にあって、息切れせずに元気に走り続けている1社が能作である。
 創業は1916(大正5)年。銅器製造の下請け一筋だった同社に転機が訪れたのは、85年後の2001(平成13)年であった。ある勉強会に参加し、デザインコーディネーターの立川裕大さんに出会ったのである。
 勉強会では、イタリア製のステンレスボウルが参考に示され、立川さんがイタリアのモノづくりを紹介。商品開発にあたって、デザインの視点を持つことを強調された。その時、能作克治社長は「当社でつくっている製品とあまり変わらない」と思い、次回の勉強会に旋盤をかけたままの真鍮の建水(茶道具の1種)を持っていった。
 「イタリアのボウルに負けていない」と評価した立川さんは、東京での展示会を勧め、後に話がトントン拍子に進んで、原宿のギャラリーでの開催が決定。2001年のお盆をはさんでの1週間、自社の商品を展示することとなった。


最初は卓上ベル。ところが…

最初に商品化した卓上ベルを手にする能作克治社長。真鍮には、きれいに輝く、音が澄んできれいという特長がある。(デザイン・ショップSA-KU店内にて)
  これは大変なことだった。銅器業界は問屋が全体をプロデュースして、工程毎に分業化が進んでいるため、下請け業者にとっては人気商品の傾向がわからない。また、展示の仕方、売り方がわからない。一般のお客様への対応の仕方も未知のこと。極端な言い方であるが、キャリア数十年の職人さんに、小売店での商品ディスプレイと販売を明日から担当してもらうようなものだ。
 また同社の製品のほとんどは半製品であるため、そのままの展示には無理があった。そこで真鍮に旋盤をかけたままのピカピカの花器や建水の他に、展示会用に新たに開発した真鍮製の卓上ベルを展示することとした。
 卓上ベルと聞いて、ピンと来る人は少ないだろう。ベルを鳴らすと執事が来て御用を承る、欧米の映画シーンなどにある、あのベルのこと。日本の生活文化の中ではあまり馴染みのないものだ。(ちなみに同社取材の前に、編集子の自宅で試しに鳴らしてみたら、叱られた)
 「音がきれいだからベルをつくってみたい」と前々から思っていた能作社長。多少、絵心もあったことから自らデザインして商品化し、花器や建水とともに卓上ベルを並べたのであった。


新しい市場をつくった

卓上ベルから発展した風鈴。1個4000円前後するが、現在、1個1万円程度するデザイン風鈴も検討している。
 ディスプレイも接客も、見様見真似で行った。展示会では、鏡のようにピカピカに輝く真鍮の美しさに驚く人が多い半面、ヘアライン(髪の毛ほどの細い平行な磨き線)が入っている方が親しみやすいという声が多数寄せられた。鏡面仕上げからは、仏具が連想されたようだ。
 「みなさん関心は高かったのですが、かといって売れませんでした。でもセレクトショップの方も展示会に来られて、これをご縁に卓上ベルを置かせていただくことになったのです」
 能作社長は7年前を振り返って語るが、展示会開催を契機に積極的に商品を開発し、販売先の開拓に努めた。その際心がけたのは、取引き先の問屋を飛び越えないこと。既存の商品は問屋経由で販売されており、それを飛び越えて販売店には卸さないようにしたのだ。一方、新しく開拓した流通に乗せる商品は、全てオリジナルな新作とし、販売先でバッティングしないように配慮。新たに開拓した販売先が、取引先の問屋と以前から付き合いがあった場合は、問屋経由を優先した。
 こうして徐々に販売先を開拓。全国展開しているセレクトショップ数社も卓上ベルなどを取扱うようになっていったが、期待したほどは売れなかった。ある時、あるセレクトショップの自由が丘店(東京)の女性スタッフがいった。
 「能作さん、このベル、風鈴にしてみませんか。多分、売れますよ」
 社長は半信半疑であった。風鈴というと、一般的にはお寺の鐘のような形をしており、イメージとしては古い。ましてやエアコンが普及した今日、窓辺に風鈴を釣り下げて音で涼を愛でる風習もなくなった。しかし、あまりにもその女性が自信たっぷりに勧めるので、とりあえず釣り下げられるようにして売り出してみた。
 予言は当たった。火がついたように売れ始め、複数の老舗のデパートが自店の販売網(店頭の他に通販など)で取扱いたいと打診してきたほどだ。
 「古臭いと思っていた私の考えの方が、古かったのです。確かに従来の風鈴はお寺の鐘の形をしたものが多く、現代の生活にマッチしなくなりました。後理屈になりますが、私どもの風鈴は、デザイン風鈴という新しい市場をつくったのではないかと思います」(能作社長)


デザイン料はロイヤリティ方式

錫100%の蚊遣と小皿。錫は軟らかいため変形自在で、例えば小皿の花びらの角度は自由に変えられる。
  以来、同氏は販売店スタッフの感想やアドバイスを傾聴するようにしてきた。銅器業界が低迷してきた中で、従来からも各方面にアドバイスを求めてきたが、百人百様の意見が出て、どれももっともらしい半面、意見の集約ができない。ところが販売店スタッフの視点は、日頃接するお客様の反応・意見の中から最大公約数をとらえており、10人中2~3人の支持は得られるのではないかという経験知からのアドバイスが多い。昨年あたりから売れ始め、今年ヒットしている蚊遣(かやり:蚊取り線香を固定する器具)も、そうだった。「おまけでついている線香たてやブタの蚊遣はオシャレではない。能作さん、なんとかならない…」という女性店員の一言から始まった。
 また商品開発にあたっては、デザインを重視し、デザイナーとの連携を基本にしている。ただ、「デザインをお任せします」と丸投げ的に依頼してデザイン料を支払うのではなく、販売実数をもとに対価を支払うロイヤリティ契約とした。デザイナーにも張り合いが出てくるというものだ。
「苔盆栽はりねずみ」(青銅製、H80×W66×D122mm)。
インテリアのひとつとして、若い女性を中心に人気が出てきた商品。
  例えば、高岡で開催されているクラフトコンペで入賞した作品「苔盆栽はりねずみ」。緑多き富山では「こんな盆栽…」と思われがちだが、社長が銀座のデパートでの展示会で紹介したところ、お客様の関心は高かく、またデパート店員の印象もよかった。それでデザイナーと相談して小売用にサイズを小さくし、また価格も抑えて10,500円(税込)にしてみた。これもホームラン。大都市圏のデパートを中心にコンスタントに売れ続け、「ひつじ」「ひなどり」などとバリエーションが増えていく中で、勤務のかたわらデザイン制作していた女性は、デザイナーとして独立した道を歩み始めたのであった。


展示会出展で販売先開拓。今度は海外の展示会に

デザイン・ショップSA-KUは、消費者のニーズをつかむために2003年にオープンした。
 能作社長の販売店開拓の方法は、展示会の開催やビジネスショーに出展することだ。この7年間、年に1~2回のペースで行い、その都度、新商品を発表してきた。その際、いただいた名刺を頼りに相手先を訪問して売り込むことは1度もしてこなかった。
 にもかかわらず、全国展開しているセレクトショップの他に、空港の土産物コーナーや生活雑貨の小売店が扱うようになり、また、ほとんどのデパートに直接商品を卸すまでになったのだ。県外の取引先の数はおよそ200社(店)にのぼり、すべてが「ウチの店で売りたい」という相手先からの打診から始まった。
 オリジナル商品は80点近くに増えた。それに伴って新規開拓した販売ルートでの売上げも増え、問屋経由の販売量はここ数年あまり変化がなく一定であるものの、新規ルートでの売上げの比率は50%を超えるまでになった。
「こんな香皿があったら…」というお客の声をもとにつくったのが、この笹のような形をした香立て。コンスタントに売れている様子。
 「銅器には歴史があり、その売り方にも歴史があります。売り方が歴史の中に埋没したことと、銅器は売れないという固定観念によって、ますます売れなくなったのではないかと思います。でも視点を変えると、売れないといわれているものでもチャンスがあるのではないかと実感してきました」(同)
 実は能作社長は、一時は大手新聞社のカメラマンをしていた。撮影では、シャッターチャンスの他にカメラを構える位置も重要で、角度によってはまったく別な被写体の表情が浮かび上がってくるが、カメラマンの経験が下請けからメーカーへの変身に一役買っていたのではないかと思えてきた。
 来年には「海外の展示会出展も検討している」という。営業マンが1人もいないにもかかわらず、ここまで変身して販売網を拡大するとは、誰も予想できなかっただろう。同社とともに「どうきの桜」を歌うような企業が現れ、小売店に元気を与える商品が増えることを祈りたい。

能作克治 株式会社能作 代表者
        本社/高岡市戸出栄町46-1
   (ショップ/高岡市熊野町1-28)
事業内容/茶道具、華道具、仏具、キッチンウェア(錫100%)
       生活小物などの鋳造製品
設立/1967(昭和42)年4月(創業1916(大正5)年)
資本金/1,000万円
従業員/21名(パート等含む)
能作/URL http://www.nousaku.co.jp/

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