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ものづくり研究開発センターオープン  

富山のものづくりが、もっと進む!
富山県工業技術センターに、中央研究所、生活工学研究所、機械電子研究所に続き、新たに第4の研究開発支援部門が生まれた。その名も「富山県ものづくり研究開発センター」。最新の装置・設備を導入し、産学官共同研究・異業種交流を活発にするため、当機構の産学官連携推進センターが管理するプロジェクトスペースや企業スペースを併設、技術研修の開催にも乗り出した。県内ばかりではなく県外の企業の耳目を集めた、富山県ものづくり研究開発センターの概要を紹介しよう。  

富山県工業技術センター中央研究所に隣接する富山県ものづくり研究開発センター。


開所式(3/29)で挨拶する石井知事。
 「ほー、すごい。この設備が設置されたのか」
 「確かこのマシンのある公設試は、全国でも数カ所のはず…」
 富山県ものづくり研究開発センター(以下本稿では、ものづくりR&Dセンターと略)の開所式(平成23年3月29日)の折、そのパンフレットに紹介された装置・設備を見て、幾人もの産業人・大学関係者がつぶやいた。例えばそれは、10m法電波暗室や発汗サーマルマネキン。前者は、電子機器や家電製品から有害な電波を発していないか、あるいは外からの電波に対してそれらが誤作動しないかを調べる設備。東海北陸地域の公設試験・研究機関では初の設置で、従来、本県の企業は他県の公設試験・研究機関に出向いて、同設備を使わせてもらっていた。また後者は、衣服内の環境を調べるための汗をかくマネキンで、この導入は全国の公設試験・研究機関では初めて。同じく繊維関連のエレクトロスピニング装置(ナノレベルの太さの繊維をつくり、その繊維で不織布をつくる装置)を導入している公設試験・研究機関も珍しく、これらを含めて最新の26の装置・設備が、新しくお目見えしたのである。
新しい装置・設備の一覧はこちら
衣服を着た時の、衣服内の環境を調べる発汗サーマルマネキン。
 これらの装置・設備については、富山県内ばかりでなく、周辺各県の企業(製造業)が注目したのはいうまでもない。また、ものづくりR&Dセンターの立地環境にも、高い関心が寄せられた。
 同センターは、工業技術センター・中央研究所とは棟続きだ。産学官連携については、今までも各種の形で模索されてきたが、インキュベートと共同研究機能を合わせ持つ施設が公設試験・研究機関に隣接するというのは、極めて珍しいとのこと。それゆえオープン当初から企業スペースは注目の的となり、入居企業も比較的順調に決まった次第だ(開発支援棟は、企業の新技術や商品試作をする開発室、ベンチャー企業のインキュベーション、産学官共同プロジェクト研究室としても利用でき、3年に1回の審査はあるが、入居期限は設けられていない)。
 ではこの、極めて関心の高いものづくりR&Dセンターは、どのような経緯で誕生したのか。


イノベーションの風を起こすために…

榎本所長は、通産省の機械技術研究所・産業技術総合研究所の研究員、信州大学教授を経て、現職に。専門はトライボロジー。
 2009年4月、富山県工業技術センターの所長に就任した榎本祐嗣氏は、センターの機関誌「Technical Information」に就任の挨拶を寄稿した。
 いわく…。
 「2008年8月22日、陸上男子400mメドレーリレーの決勝が行われた北京オリンピックスタジアム、ファイナルの舞台に日本チームがいた。しかし最有力候補の米国とナイジェリア、そしてイギリスの姿はなかった。予選でバトンが繋がらなかったからだ。ピストルの音とともに、日本チーム1走の塚原がすばらしいスタートで末続にバトン、3走の高平がねばって朝原にバトンを繋ぎ、3位でゴールを駆け抜けた。…バトンゾーンで確実な受け渡しに工夫を重ねた結果が、勝利を呼び込んだのだ」
 新所長は日本選手の快走を枕詞にし、そのバトンの受け渡しのような産学官の連携によって、「富山のものづくりを盛んにしたい」という。挨拶文は続けていう。
 「工業技術センターは、富山にイノベーションの風を巻き起こす産学官連携のバトンゾーンでありたい。お膳立てしなければいけないことがいくつかある。…日ごろから、産学官連携の情報交流が不可欠になる。研究や情報のインフラが合目的で集約・整備されたバトンゾーンを造り込んでおかなくてはならない」と。そのバトンゾーンで、陸上男子400mメドレーリレーのような素晴らしいバトンリレーを、産学官あるいは異業種間で行い、技術の開発やそれを元にした新産業の創出を図ろうというのだ。
 タイミングよくその年度の半ば、国は補正予算を組んで産学官連携の拠点づくりに乗り出した。一方、富山県では、その先年から県の施策として世界的な試作品づくりの拠点を目指し、またそのための人材育成を図ることを目標に掲げていたのだが、榎本所長のバトンゾーン構想と摺り合わせて、ものづくりR&Dセンターの計画書を国に提出。若干の修正や紆余曲折等はあったものの、計画はほぼ順調に進んで、産学官連携のためのバトンゾーンづくりが始まったのだ。
独法)産業技術総合研究所の野間口有理事長を記念講演の講師に招いて行われた、ものづくり研究開発センター開所記念シンポジウム(6/8)。


最先端設備は企業・大学等に広く開放

 「異分野融合・異業種交流は、全国のどの産業支援機関も唱えていますが、富山はアドバンテージが高い。アルミをはじめとした金属加工業が発達し、プラスチックや樹脂、機械、電気・電子などの産業も裾野が広い。一方で医薬品や化学工業の企業が集積し、漁業や食品産業も盛んです。これほど産業のスペクトルが広い県は珍しく、だからこそ異分野融合による新しい産業創出の可能性が高いのです」と榎本所長は強調し、「ものづくり研究開発センターが、バトンゾーンとしての役割をきっちり果たしていけば、成果は出るはず」と結んだ。
 この、ものづくりR&Dセンターをどのように運営し、新産業の創出を図るのか。箇条書き的に運営方針をまとめると以下のようになる。

1)最先端設備の開放
  • 企業・大学等に対して最先端設備を広く開放
  • 必要な時にいつでも利用できるように
  • 研究者・技術者のスキルアップのため、最先端設備の高度利用のための技術講習会の開催
2)研究開発プロジェクトの推進
  • プロジェクトスペースを活用した研究開発プロジェクトの実施(H22年度からプロジェクト立ち上げのための先行研究会(バトンゾーン研究会)を実施)
  • 国等の大型研究開発プロジェクトへの提案および実施
3)異分野・異業種交流の促進
  • 異業種交流セミナーや研究会の開催
  • 知的所有権センターとの連携により、個別企業の知的財産の一層の活用
  • オープンイノベーションの推進
4)実践的なものづくり人材の育成
  • 実践的で高度な知識を有する人材育成のため、長期インターンシップ受入れや人材育成講習会の実施
  • 「若い研究者を育てる会」との連携強化
 企業・大学等に対して、設備を広く開放するには、その前提として設備の使用方法をマスターしてもらう必要がある。そこで、ものづくりR&Dセンターでは新年度に入ってすぐ、設備の高度利用のための技術基本研修(無料)を開催。装置・設備ごとに講師(メーカーのエンジニア)を招いて、操作方法の習得に努めた。また、それをさらに進めた技術応用研修(有料)も開いており、この秋までには終了の予定だ。

イミュニティ技術講習会の様子。10m法電波暗室を使って、ノイズの測定について説明された。

 一方、ものづくりR&Dセンターの重要な役割のひとつであるバトンゾーン研究会については、(1)超精密加工、(2)EMC・メカトロ、(3)軽金属加工、(4)繊維応用、(5)高分子・複合材応用の5つの分科会に分け(分科会について詳しくはこちら)、 メンバー企業の募集しながら研究会を実施。かつて工業技術センターも開発支援の一員となり、産学官連携・医工連携の賜物のともいえるバイオチップの開発のような成果事例を、早く示すことができるように情報交換に余念がない状況だ。
超精密切削加工機技術講習会では、セミナールームでの説明の後、設備を動かしながらの講習も実施。


実験設備を使う際のレシピは工夫しだい

「技術的に困っていることがあったら、まず電話ください。そして一度会いましょう」と気さくに呼び掛ける土肥義治課長。
 工業技術センターの各研究所(中央研究所、生活工学研究所、機械電子研究所)では、これまでも企業からの依頼試験や共同研究を通して、技術開発・製品開発などの産業支援の一翼を担ってきた。新設の、ものづくりR&Dセンターには、これまで以上に高度で最先端な設備や特徴的な設備が導入され、他の地域に負けない研究開発環境が一気に整備されたわけだ。
 そこで同センターでは、企業や大学がより突っ込んだ研究開発にとことん取り組めるよう、取り扱いの容易でない高額装置であっても、自ら操作できるよう、思い切った利用システムを採用。センター職員が、黒子に徹してアシスト側に回ることができるし、困難と感じた場合は、任せることも可能だ。利用形態の自由度は大きい。利用者自らが、高度な設備を操作してデータ取りや試作を行えば、より主体的な技術開発・製品開発に繋がり、同時に人材育成も図られるだろう。
 「先端的な設備は潜在能力が高く、何を目指してどう使うかによって、何倍も効果を発揮します。そのアイデア出しは、もちろんセンターの職員もお手伝いしますが、大学や異業種間のネットワークが強固になることによって、開発テーマが泉のように湧き上がってくることを目指しています」
 これは工業技術センター中央研究所・材料技術課で課長を務める土肥義治氏の弁。同じような素材を使っても、レシピが違うと料理のおいしさに雲泥の差がつくように、同じ装置・設備を使った実験でもレシピが違うと、そこから導かれる結論の奥行きも違ってくる、というわけだ。
 従っていずれの技術基本研修(無料)でも受講者の意識は極めて高く、ほぼ満席の状態。セミナールームでパワーポイント等を使ってのシステムの説明の後で、実機を使って操作方法が講習された。また技術応用研修(有料)は、設備の操作を習熟するためのもので、実際に即して課題を設定して、受講者一人ひとりが操作していた。
 これらの研修は、企業や大学の技術者・研究者向けのものだが、それ以外の見学も多いという。土肥課長によると、業界団体や商工会、経営者団体、市町村議会の議員の方々など、センターオープン以来、週に1回、30人規模で受け入れてきたそうだ。中には、業界団体の見学の際に社長が参加され、後からその会社の社員20名ほどが、別途、見学を申し込まれたケースもあり、また金融機関の方が、取引先企業の社長を案内してくるケースも多々あったという。
 「金融機関の方が、取引先企業の社長と一緒に来所されるのは、従来の工業技術センターではありませんでした。それだけ、ここは注目されているのでしょう。そこで例えば、『最新の積層造形装置にCADデータを入れると、樹脂で、試作品レベルのものができます』と案内すると、数百万円かけて金型をつくっていた従来の方法しか知らなかった社長は、まさに“目からウロコ”で、イキイキと目を輝かせるようになる」(土肥課長)のだそうだ。
開所からの半年間は、週に1回のペースで見学会を実施。毎回20~30人規模で受け入れてきた。


隣接していると便利なことばかり

 前述したように、ものづくりR&Dセンターの特徴のひとつに、企業スペースを併設していることが挙げられる。それも工業技術センター・中央研究所の敷地内に、その試験棟と隣接する形で立地。県にはこの他、農業、水産、薬事、衛生、環境、果樹、畜産、森林などの公設試験・研究機関もあるが、それらと隣接する形でプロジェクト&企業スペース(インキュベートと共同研究機能を合わせ持つ施設)が設けられたのは、恐らく初めてのこと。側聞するところによると、公設試験・研究機関に企業スペース(インキュベーション施設)が併設される例は全国的にも珍しく、現時点では2、3の例を数えるだけだそうだ。
 その、ものづくりR&Dセンターの企業スペースに、いち早く入居を決めたのが(株)オーギャの水島昌徳社長(オーギャ=Original Goods for Allの頭文字より)。同社はセンサ開発、センサソリューションをメインとするベンチャー企業。産業用ロボット、ヒューマノイドロボットなどにセンサを提供するとともに、ロボットが将来、今より遥かに民生化されて普及することを見越して、より小型化して、かつ性能の高いセンサの開発に取り組んでいる。
 「3月までは高岡駅ビルのインキュベーション施設に入居していました。共同研究していることもあって工業技術センターにはほぼ毎日通っていたのですが、ここに企業スペースが併設されると聞いて、すぐに申し込みました。新しく導入されたUV表面加工装置が魅力でした」(水島社長)
 センサは、センサ部分そのものが重要なのはいうまでもないが、複雑な配線パターンを有する基板もポイントになる。試作品をつくる際、従来はその都度、パターンの版を起こすところから始め、毎回3~5万円の費用をかけていた。しかしながら試作1回目で期待した通りのパターンができるとは限らず、それがかさむとベンチャー企業にとっては負担になる。
 そこに導入されたのがUV表面加工装置だ。この装置は、紫外線照射によりアクリルポリマーの表面を改質。あるいはまた空気存在下で照射すると、ポリマー表面を直接酸化することができる。この特性を生かすと、センサにとって命ともいえる、微細なパターンを有する基板の試作品を、簡単に・安価につくることが可能。水島社長はそこに魅力のひとつを感じたのであろう。
 また工業技術センターに隣接する企業スペースに入居すると、センターに通うための時間の節約になる。その結果、センター職員への相談も、より頻繁にそして長くとれるように。さらには入居している他の開発型企業の人々と情報交換の場が持てるようになり、企業スペースへの入居の結果、一石三鳥・一石四鳥の効果が期待されるわけだ。
オーギャの水島社長はセンター開所と同時に企業スペースに入居。「いずれ工場を持ちたい」という。このロボットハンドに装着されている同社の超薄型触覚フィルム(静電容量検出型感圧センサ)は、0.5mm以下の厚さで、曲面への実装も可能。


 「富山県ものづくり研究開発センター」への関心の高さは、前述の通りだ。ちなみに企業スペースには隣県企業の入居もあり(8月初旬時点で、2階の企業スペースは予約も含めると満室、1階の広いプロジェクトスペースが2室空いているのみ)、設備利用についての問い合わせは中部各県からもきている。またセンター前の駐車場には県外ナンバーの車も目立つようになり、産学官連携・異業種交流の舞台は整いつつあるようだ。
 新しい技術、新しい製品が世に出るのもそう遠くではないであろう。その誕生の産声が、「おぎゃー」と日本のみならず世界にとどろくことを願ってやまない。

【お問い合わせ先】
富山県ものづくり研究開発センター
https://www.tonio.or.jp/monozukuri/

【最先端設備に関して】
富山県工業技術センター 企画情報課
高岡市二上町150
TEL0766-21-2121 FAX0766-21-2402

【企業スペース・プロジェクトスペースに関して】
(財)富山県新世紀産業機構 産学官連携推進センター
ものづくり研究開発センター
高岡市二上町122
TEL0766-50-8280 FAX0766-50-8283

作成日2011.08.19
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