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第5回とやまベンチャーマッチングフェア開催  

第5回とやまベンチャーマッチングフェア開催
2月24日(水)、富山国際会議場において「第5回とやまベンチャーマッチングフェア」が開催されました。基調講演では、これまで2,000社以上の新事業創出支援を手がけた桂勤氏に「新事業創出のポイント」と題して、成功の秘訣をお話いただきました。またビジネスプラン発表会では、投資家やパートナーを求めて8件のプランが紹介され、合わせて商談会も開催されました。その概要をお知らせします。
 

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基調講演 新事業創出のポイント
株式会社エコファースト 代表取締役 桂 勤氏

 最初に自己紹介をします。私はある意味、技術屋です。大学で分析をやっていました。私が勤務していた早稲田大学の環境保全センターでは、水銀やカドミウムなどを分析する機械が並んでいます。そこでは新しいことを考えついた先生方や学生が、自分の考えが正しいことを証明するために機械を使って実験しており、機械の使い方、測定の仕方、データの意味を教えて欲しいと訪ねてきました。
 そこで学生の話を聞いているうちに、通信の学生はこの辺りで困っている、資源の学生はここで引っ掛かっている、と傾向がわかってきました。そうすると答え方の要領も心得てきて、例えていうと化学の学生には物理の視点で答え、物理の学生には化学の見方で教える手法で対応してきました。多い年には、2,000人以上の卒業論文、修士論文、博士論文を書く学生の相談に乗りました。こうしたことを繰り返しているうちに、果たしてこれが教育かと疑問を感じました。彼らは自分の頭で考えて、実験を組み立てて答を出しているわけではありません。
 それに気がついて、自分はここにいてはいけないと思い、大学を辞めました。16年前のことです。私が大学を辞めると、中小企業基盤整備機構から声がかかりました。中小企業からの相談がたくさんあって、答に困っているというのです。分析の指導をしていた時、卒業生や企業の方の相談も受けていましたので、企業とのネットワークはたくさんありました。それで、ご相談いただいた中小企業のビジネスプランが大筋で正しいと思ったら、私のネットワークの企業に紹介するようにしました。
 そうすると皆さん意気投合して、試作品の開発などにすぐに取り組むのです。相談された企業は、コストをかけずにできる方法はないかと模索し、ベンチャー企業が持っているビジネスプランを実現しようと、熱心に協力してくれました。そして試作品ができて、ベンチャー企業のプランが正しいことがわかると、量産の方法も一緒に考え、売るための商社探しもしました。今日の言葉でいうマッチングです。この手法は非常にうまくいきました。中小企業基盤整備機構では、ベンチャー総合支援センターという部署に所属し、今は大きな組織になっていますが、スタートは私と女性の事務員だけでした。
 ロケットを打ち上げている、宇宙航空研究開発機構(JAXA:ジャクサ)の研究員や特許のコーディネーターもしていますし、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO:ネド)の新技術調査委員も務めています。最近では温暖化ガス25%削減のために役立つ技術を見い出したら、私からNEDOの本部に連絡を入れることになっており、このマッチングフェアにくる前に有望な技術が1件ありましたので、NEDOに紹介してきたところです。
 そして私は、本業としては株式会社エコファーストの代表を務めるとともに、ハイスペック・アスベスト対策協議会の代表もしています。

今は大手企業と組むチャンス

 企業の方々の最近のお話をうかがっていると共通するのは、「アメリカさん、この不景気、よくもたらしてくれましたね」という感覚です。そこでアメリカに元気がないのだったら、ドイツに行きましょう、フランスに目を向けましょう、という人がいるかというと、そうではありません。韓国や台湾、中国そしてベトナムなどに目を向けています。東南アジアでパートナーを見つけて製品をつくり、ヨーロッパへ持って行くことを考えている人が非常に多い。また、今まではコアになる技術は日本に残し、量産化の技術だけを中国に持っていくケースが多かったのですが、最近ではコアになる技術も売ろうとする企業が出てきました。
 一方、国内はどうか。政府は一生懸命にやっていますが、実感としてはまだまだでしょう。特徴のある動きとしては、大手企業が積極的なことです。今まで私のところには中小企業の相談が圧倒的に多かったのですが、最近は大手企業が「一緒にやりましょう」と誘うようになりました。理由はいろいろあるでしょう。一つ確認できたのではリストラをやり過ぎて、大事な人材まで外に出してしまった。例えば子会社や関連会社に転籍させる場合、受け手側に選択権があるため、子会社や関連会社が欲しい人材を指名してくるのです。その結果、大手企業の開発や製造のコアになっていた人材が移ってしまい、本社に人材がいないようになったのです。
 そこで思うのは、新しい商品やサービスで、大手企業と組むチャンスではないかと、ということ。中小企業の方々にはこれをいつもいっています。中小企業の方は、「大手とやると最後はみな持っていかれる」と危惧しますが、私はそうは思いません。契約などしっかりして、組める時は組んだ方が安心できることがあります。


新事業の機能分析をする

 さて、新事業展開の基本についてお話しましょう。まずは商品、サービスを見極めることです。私は10年ほど前から、仕事のお手伝いで富山にくるようになりました。そこで思うのは、富山ではベンチャー企業のフェアに出展する製品の完成度が、極めて高い。ところが皆さん売り先を求めてフェアに参加されている。そこに何があるのかというと、ご自分たちのイメージだけで商品をつくったのではないか。売り手のこと、買い手のことをあまり考えていないのではないか、ということです。
 今日のビジネスプランの発表には、食品関係が多いようです。食品業の方は食品業的に問題を解決しようとするでしょうが、解決のヒントは他の業界にあることもあるのです。その方が安くて品質よくできる時もありますので、食品業の常識にとらわれる必要はありません。大学にいた時に私は、物理の人に化学の視点でアドバイスしていたと申し上げましたが、そういう意味です。
 新しい商品やサービスを開発した場合、その優位性をまず認識しないといけません。先ほど私は、大手企業と組むのもいいと申し上げました。大手企業に対しても、優位性を持たなければいけません。大手企業は、「特許の手続きをとっていますか?」とまず最初に聞いてきます。それは優位性の有無の確認であり、手続きをしていないということは、新規性のない技術か新事業に対する配慮がないと判断し、相手にしないでしょう。商標や意匠についても同じ。中には、「秘密保持契約を結びましょう」といってくる人もいます。
 会社の規模が大きいか小さいかは、新事業には関係がありません。過去の実績も関係ありません。大手企業であっても、新事業に取り組む時は新参者です。そう考えると、特許などはお土産として用意していった方がいいでしょう。
 新商品・新サービスの機能分析について話します。富山県の場合はものづくりが盛んですから、ついついつくってしまいます。自社にない技術も、他に企業がたくさんありますから、探すことも簡単です。そこで探し出した企業のところへ行って話すと、別なやり方がいいというケースもある。これがいくつか重なると、最初のプランからずれてくることがあります。何しろ新事業ですから誰も経験していない。前向きな意見をいただくと取り入れたくなり、次から次へと意見を取り入れて、当初とは違う方向に進んでしまう。そしていつまで経っても新商品ができないことがあります。
 それをなくすために機能分析をし、方向性を確認します。会場の皆さんが今、新事業を考えているとしましょう。隣の方に、「こういう新商品があったらいいでしょう」と聞いてみてください。隣の人が、「うんうん」とうなづいて肯定したらいいのです。そこでうなづく人が多いと、ビジネスとして成功する可能性が高い。誰も肯定しないのでしたら、そのプランは再考したらいいでしょう。
 それで、自分なりに答の結論を出したら、最後までブレてはいけません。新事業ですから奥さんや友人にも理解されない可能性があります。本当にそれを理解しているのは、自分だけです。


儲かるかどうかのシミュレーションを早期に

 次に販売のことです。広告宣伝をするといっても、莫大な費用がかかります。ここで大事なことは、従来やってきた仕事でどういう人に信用があるかです。特に新事業であればあるほど、これはポイントになります。今までの仕事で銀行の信頼がある、だから5,000万円借りたいといっても、銀行は中小企業の新事業に5,000万円融資するとは、なかなかいってくれません。
 皆さんが、立場を変えて銀行員になったと仮定したらすぐにわかるでしょう。“付き合いのある中堅企業が、まったく違う分野で新事業を始めるらしい。5,000万円の融資を望んでいるようだが、担当者としてポンと5,000万円融資できるか、どうか”。今の時代でしたら、「止めた方がいい」といいかねません。「この分野で信用があるのだから、その延長でひとひねりした方がいいのでは…」と。こう答える銀行員は、間違っていないと思います。
 そこでいえるのは、個人の信用を生かすことです。その信用で築いてきたネットワークに、新しい事業は乗らないか。それをうまく活用できれば、販売網を構築する莫大なエネルギーを使わずに済むのです。これは非常に大きい。これをぜひ生かしたらいいでしょう。
 今日はこの後で、ビジネスプランが発表されます。「これは儲かる事業ですよ」と証明するのがビジネスプランです。そこでビジネスプランには、早く儲かることを示す数字が必要になってきます。計算してみて、儲からないことがわかったら、そのビジネスプランは早く捨てた方がいいでしょう。途中まで進めてからビジネスプランを作成する人も見受けられますが、プランは最初に書いた方がいい。初めの段階では、キーワードを配置したような簡単なものでもよく、儲かるかどうかのシミュレーションをやってみることです。


自分が何をしたいのかをはっきりさせる

 このビジネスプランを銀行の関係者に見せることがあり得るでしょうし、補助金の申請に県などに書類を提出する場合もあります。またビジネスパートナーに見せる場合があります。ですからビジネスプランには、事業の名称や競合する会社や類似の事業、そして自社のビジネスプランの強み・弱み、販売方法、製造をどこで行うか、そして資金調達をどうするか…。最低限これらは書いてください。
 そこで事業の名称についてですが、「○○の製造・販売」というような書き方は、役所への補助金申請や銀行への融資相談では評価されません。新規事業では、やっと試作品ができた段階でしょう。開発にお金を注ぎ込んで、中小企業でしたら資金的余裕のないケースが多いでしょう。そこで「○○の製造・販売」というビジネスプランを書かれても、資金に余裕がないのですから販売できるはずがありません。また補助金申請でそういうビジネスプランを受け取った時、私たち審査する側は×をつけます。
販売方法をうまく書けないこともあります。しかしそれでは、売上げが立たないビジネスプランになるわけですから、そもそもビジネスモデルとして成り立ちません。そこで販売方法が書けないとわかったら、ビジネスプランとしては止めて、A商事、B商社への事業提携計画書にして、販売は提携先に任せることを考えたらいいのです。それがうまくいったら、ものすごいビジネスプランに生まれ変わるわけです。
 補助金・助成金の審査の関係で、ビジネスプランを読ませていただいて私が感じるのは、書いている人の個性が浮かばないことです。今はインターネットの時代。Yahoo!やGoogleで困っていることのキーワードを入れて検索するとしましょう。例えばそれが鉄鋼業の問題で、検索するキーワードが同じだと仮定します。ところが同じ検索結果を得ながらも、成功する人もいれば失敗する人もいる。銀行は成功する方に融資したいと思うはずですが、成功する要素というか因子がビジネスプランの中で浮かんでこないとダメ。プランを書いた人の個性が浮かんでこないと難しいといえます。
 銀行や投資家にしてみれば、誰でもいいわけではありません。選択の要素のひとつが、先ほども申し上げた特許です。またその製品の中の、重要な部品や技術については当社が日本では総代理店契約を結んでいる、なども重要な要素です。ですからビジネスプランの中で、自分が何をするかを表現してください。販売面で何をする、競合企業と戦う時には何をする、製造の部分では何をする…。とにかく自分を売り込むことです。


新しいアスベスト対策を開発

 新規事業の実例として、私が取り組んでいるアスベスト対策の話に入っていきます。私は大学にいる時にも、アスベストは扱ってきました。何しろ危険だといわれています。吸い込んで40年ほどしたら発病する。ですから、吸いたくない。吸わないためには近づかないのがいい。そこで近づかずにアスベストを固める工法を開発しました。建物のアスベストのある部分にノズルを入れて薬剤を噴霧し、その薬剤を充満させてアスベストを固める。操作はアスベストのない外からします。そういう工法を開発しました。
 アスベストを除去している様子をテレビでご覧になった方もいるでしょう。あれはアスベストとコンクリートの塊をとっているだけです。アスベストは髪の毛の5,000分の1の太さ。ということは、あの工法では、粉塵として飛んでいるものは除去できません。ところが薬剤を噴霧すると、霧がアスベストを捕まえるのです。構造物の隙間やパイプの裏側、梁の上にたまっているアスベストも、霧状の薬剤は固めてしまいます。
 このビジネスを始めた当初、ある中央官庁から「エレベーターシャフトに施工できるか」と引き合いがありました。エレベーターシャフトとは、エレベーターのカゴが釣られている筒の部分です。もちろん従来工法の業者にも見積り依頼がいっていますし、NEDOから補助金をもらって、アスベスト除去工事用のロボットを開発した大手企業も見積り競争に参加していました。
 結果は、取引き実績のない当社への発注となりました。これは大変に珍しいことです。アスベスト除去工事用ロボットは、エレベーターシャフトでは動かせないし、従来工法では高かったのです。それもアスベストとコンクリートの塊をとるだけの工事で、浮遊しているアスベストは除去できません。
 その建物は15階建てでエレベーターシャフトが6本あります。そこで6人が25日間働きました。機材を持ち込んだりもしましたが、アスベスト対策協会は5,300万円いただきました。
 あるゼネコンから、霧が全面に回ることを証明して欲しいと依頼がありました。天井裏はもちろんのことパイプの向こう側、隙間などにも霧が入っているかを確認して欲しいという。それで、蛍光剤を入れて噴霧したところ、パイプの裏や構造物の隙間にも霧が届いているのが確認でき、評価がますます高まりました。この工事では霧をかけたくないところにはビニールシートを張るので、汚しません。工期も短いのです。大きなビルでは、従来工法では2年間かかるのが、我々の工法では30日ほどです。これは決定的な競争力になっています。
 先ほどの中央官庁で工事したことが実績になって、他からも引き合いがきました。ワンフロアー200平方メートル程度の10階建てのビル。従来工法では4,300万円の見積りがきたそうです。我々の工事では、薬剤がかかってはいけないところにビニールシートを張って、天井を外して噴霧すると2,300万円の見積りになりました。半値近くです。このビルでは天井を剥がさずに、微生物などを扱う時に用いるグローブボックスのようなものを天井につけて、その中で天井に穴をあけ、そこからノズルを入れて噴霧することにしました。この方法ではビニールシートを張らなくてもよくなって、3人が8日間かけて、1,000万円でできるようになりました。


プランがしっかりしていたら不景気も…

 この工法の強みには、先ほど申し上げたJAXAの特許、私たちの協会が持っている特許があり、中央官庁が採用した実績もあります。今申し上げた10階建てのビルの工事は、昨年の暮に行いました。その時、多くの不動産投資顧問が見学にきました。不動産投資顧問はビルの転売をビジネスにしていますが、アスベストが残っているビルは徐々に転売しにくくなるから、我々の工法を見学にきたのです。
 彼らは、霧が全体に回るかどうかに関心をもっていました。先ほど申し上げたように、そのビルではグローブボックスから薬剤を噴霧しましたが、別な階の天井を一部あけてアクリルの透明な板を張り、中が見えるようにしました。そして噴霧し始めるとすぐに霧が回ってきたので、皆さん感動していました。
 年が明けてからの私は、見積りと現地調査に飛び回っています。見積りの総額だけで5億円を超えました。どこも値切ってきません。他より遥かに安いからです。これらが「年度内にやって欲しい」「年度が変わったらすぐに工事して…」といってきたら、機材のやり繰りが大変で、それを増やすための資金調達をしているところです。
 新事業の一番のポイントは、なんといっても資金繰りにあります。私たちはこの事業で、準備に準備を重ねてきました。しかしまだお金に苦しんでいるのです。皆さんも商品・サービスをしっかり見極めていただいて、成功に結びつけてほしいと思います。
またこの事業で我々の弱いところは、営業力です。そこで大手企業と組むことも視野に入れています。ゼネコンは多くの物件を持っていますし、先ほど申し上げた不動産投資顧問も、ある意味、営業の協力者です。彼らに営業していただいて、「工事は我々がきちんとやります」でいいのです。この協力関係はできつつありますから、我々にない営業力はカバーされます。
 最後に、このマッチングフェアのために富山にうかがって、昨日、ご縁があって2社の社長にお目にかかり、取り組み始めた新しい事業を見せていただきました。私はその2社とも成功すると思いました。不景気な時でも、しっかりしたビジネスプランを持っていたら成功するものです。2社の社長はまだ若い方でしたが、真剣に考えておられたのが印象的でした。

桂 勤 氏
株式会社エコファースト 代表取締役 他役職多数
 熊本県天草出身。東京理科大学理学部卒業後、日本大学理工学研究科工業化学博士課程、早稲田大学「環境保全センター」、理工学部講師 等を経て、(有)創造本舗桂を設立し、その後(株)ファーストステップを設立。創業者、新事業創出を目指す全国の企業支援を手掛けて、これまで2000社以上に対応。企業の強み分析から始め、アイデア検証、特許化支援から事業化までを一環してサポートする。
 他、役職としては、厚生省 国立公衆衛生院、運輸省 船舶技術研究所 非常勤技術顧問、環境庁「海洋投入処分基準調査検討会」委員、(独)中小企業基盤整備機構関東支部 中小企業・ベンチャー総合支援センターアドバイザー、日本新事業支援機関協議会((財)日本立地センター内) JANBOフェロー、(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)新技術調査委員、生活環境菌対策事業協同組合 理事長ほか多数

作成日2010.03.29

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