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第8回ベンチャープラザとやま特別講演  

特集 第8回ベンチャープラザとやま特別講演
癒しロボットの研究開発と 事業化への取り組み

ギネスブックが、柴田氏(富山県南砺市城端出身)の開発したロボットは“世界一癒し効果のあるロボット”と認定。その開発の経緯や効果、事業化などを講演いただきました。また、ビジネスプランの発表会では、県内外から8社が集まり投資家やビジネスパートナーを求めて新商品の紹介が行われました。その概要を紹介します。


産業技術総合研究所はもとは経済産業省の研究所で、産業基盤の振興を支援する研究をしています。バイオ、ライフサイエンス、ITなど、民間企業との共同研究、あるいは受託研究などを通して産業支援を行っています。
  さて、ロボットですが、産業用のロボットは工場の製造ライン等で活躍していますから皆さんご存じでしょう。人の労働力の補助、あるいは物理的な力の提供、自動化などさまざまな場面で、1970年代から活躍し始めました。
  産業用ロボットの市場規模は91年がピークで、日本国内ではここ数年は5,000~6,000億円で推移しています。ロボットの機能そのものはどんどん向上しています。しかし価格が安くなっているため、台数が増えているにもかかわらず市場規模が伸び悩んでいるのが現状といえるでしょう。


人と共存するロボット

 一方、ロボットにはわれわれ人間と共存するものがあり、こちらは人の主観的な評価を基準につくるもので、付加価値が大きければビジネスとしての可能性が広がってきます。例えば絵画の原価は、極端にいえば絵の具とキャンバスなどだけでしょう。しかしピカソの絵には何億円もの値がつけられる。これは絵を見る人が主観的に評価し、そこで価値がつくられているからにほかなりません。ですから付加価値を高めたロボットは、産業用ロボットとは別な評価がされ、発展するのではないかと思われます。
  人と共存するロボットについて、お話しましょう。現在いろいろと研究開発中ですが、大きく分けてみると、まず人の形をしたロボットがあります。これはエンターテインメント的には魅力的ですが、労働の補助や生活の支援等にはまだ無理なところがあります。
  セキュリティーとか掃除等の特定の用途に絞ったホームロボットも出始めました。アメリカのあるメーカーが、日本円にして3万円ほどのホームロボットを売り出したところ、全世界で100万台を突破したといわれています。ロボットとしての精巧さの点ではあまり高いものとはいえませんが、価格と機能のバランスから見て、“おもしろい”と判断されたから世界中で受け入れられたのではないでしょうか。
  ペットロボットという分野もあります。おもちゃレベルのものからアイボのように高機能なものまでさまざま。96年に商品化されたたまごっちは非常に人気が出て、全世界で1,000万個くらいは売れたのではないかと聞きました。また99年に商品化されたアイボは25万台ほど出ているようで、そのうちの84%程度は日本国内での販売。他は欧米ですが、ほとんど日本でしか受け入れられなかったことは考慮しなければならない何かがあるのかもしれません。
  福祉ロボットの研究も盛んに行われています。しかしこの分野はまだまだ研究の途中で、食事を支援するロボットが国内メーカーから出されていますが、今後の展開が期待されるところでしょう。


安らぎをもたらすロボットを 目的に

 私が開発を進めてきましたのは、ペットロボットと福祉ロボットの中間で、セラピーロボット。私はこれを「メンタルコミットロボット」と名づけています。メンタルコミットロボットは、ペット動物のように人と共存して、身体的な触れ合いを通して楽しみや安らぎを人に提供することを目的にしています。アザラシ型ロボットの「パロ」はこうしたことを目的に、子どもからお年寄り、そして体が不自由な方々に、心の豊かさを提供したいと考えて開発してきました。
  パロは、第3世代からは富山県砺波市にあるマイクロジェニックス社と共同開発を進め、第8世代まで開発を進めて商品化しました。段階毎にさまざまな方に評価していただいて、改良を加えています。現在の大きさは、長さ55cm、高さ29cm、幅18cm、重さは2.7kg。マイクが3本あって単語レベルの音声を認識し、学習機能がありますから名前をつけて何度も呼ぶと、それに反応するようになります。音の方向の同定もします。また、光のセンサーを内蔵していますので、例えばフラッシュを当てて写真を撮ったりしますと、瞬きもする。
  人が抱きかかえても破損しないようなアクチュエーターシステムにし、モデルのタテゴトアザラシの赤ちゃんのような鳴き声も発します。タテゴトアザラシの観察のためにカナダにも行ってきました。触り心地も本物に近いものがあります。パロは病院や高齢者向けの施設で使うことを想定していますので、抗菌性のある繊維で外側のぬいぐるみの生地をつくっています。
  第1世代、第2世代では、本物のアザラシのように動く機能もつけていました。しかし、セラピーの目的で使う場合を想定した時、車椅子や寝たきりの方が使うことも十分に考えられ、これらの方々にはパロが手もとを離れてしまうことは不都合を招いてしまう。そう考えて第3世代からは動く機能を外しました。またアザラシが、ごろんと寝転ぶしぐさがとてもかわいいので、寝転ぶ機能を第5世代でつけたのですが、うまく起き上がれなかったので、第6世代からは外しました。
  パロの中には、32ビットのセンサーが2つ入っています。少し前のパソコン2台に相当します。電気(充電式)によって動きますが、アザラシは哺乳類でおっぱいを飲んで成長しますから、充電器はおしゃぶりの形にしました。エサをやる、世話をするという感覚を持ってもらうことができます。
  このように開発したパロを日本国内ばかりでなくスウェーデン、イギリス、イタリア、アメリカ、ブルネイ、韓国、アラブ首長国連邦等で評価していただき、今も続けています。ロンドンで展示していた時にギネス世界記録の研究者の方が来られ、それまでの実験データが欲しいといわれましたので提出すると、「最もセラピー効果のあるロボット」と認定してくれました。現在はスウェーデン語やイタリア語等、各国の言葉が認識できるように開発中です。


病院や施設での評価は上々

 パロのセラピー効果については、国内の小児病棟や高齢者向けの施設の協力を得て行いました。パロに接した後の気持ちを小児病棟に入院している子どもたちを対象に調べたところ、「気持ちがいい」と答えた子どもが圧倒的に多い。突然体調を崩して、入院時に話すこともできなかった子どもがパロと接するようになって言葉数が増え、「パロと遊ぶと何か気持ちが楽になる」とテレビのインタビューで答えていました。
  高齢者向けの施設でも好評です。ある施設では、週1回1時間、パロと触れ合う時間をつくっていますが、他のイベントでは職員が車椅子を押して来られるのに、パロとの触れ合いの時は車椅子を自分で漕いでやってくる。そして日ごろは他の入所者とはあまり話さないのに、パロのことで入所者同士が話すようになり、また若い職員とも共通の話題ができて会話が弾んでいるようです。時々、クリーナーでパロを掃除するのですが、高齢者の方々がよろこんでされていました。
  この施設ではパロの評判は非常によく、2台導入していたのを1台増やして3台にしました。心理学者の方に、高齢者とパロが触れ合う様子のビデオを見ていただいたところ、“普段、自分が世話をされている中で、自分が世話をする対象としてパロをかわいがっているのではないか”とコメントをいただきました。人間の尊厳にも関わるような大切なものがあるように思えてなりません。
  認知症(痴呆症)に、パロがどのような効果があるのかの実験も、ある脳神経科の病院の協力を得て行っています。現在のところ、脳機能の改善効果が高いというデータが出ており、アートセラピー等と同様な効果を、パロと触れ合うという簡単なことでできることが注目を集めています。  以上のような実験や調査は、今では欧米の大学や病院などでも行われるようになり、その効果が徐々に確認されています。病院や高齢者向けの施設等では、感染症の恐れがありますからペットの持ち込みはできません。しかし、ロボットのパロでしたら大丈夫。従来はこれらの施設へのリースを中心に行ってきましたが、昨年9月、富山県南砺市城端にパロの販売会社が設立され、今後は個人向け販売も予定しています。1台ずつの手づくりですから顔の表情が若干違いますが、顔つきのリクエストにも応えられるように、と思っています。観光の折にでもぜひともお越しください。

パロについての問合せ先
株式会社知能システム
〒939-1865富山県南砺市城端4316-1
南砺市起業家支援センターJEC3階
フリーダイヤル 0120-86-1842
URL:http://intelligent-system.jp/




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