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第25回 伊勢領製作所株式会社  

第25回 伊勢領製作所株式会社
創業以来40年右肩上がりを継続
それを支えたのは1に技術、2に…
  
 JR北陸本線・小杉駅の近くに「三ケ」という名の町がある。昔その一部に「伊勢領」という地域があったが、町名変更によってその地名は消え、今では「伊勢領橋」などがかつての面影を残すだけになった。
 一説には、かつて伊勢神宮の荘園があった地には「伊勢領」の名が冠されたといわれる。この伊勢領も伊勢神宮ゆかりの地か…。
 今回の取材先、伊勢領製作所は昭和45(1970)年にそこで産声を上げ、後に現在地に移転。ご利益(りやく)のある社名のゆえか、事業を始めてからの40年あまり、「ほとんど右肩上がりできている」(下保隆社長)というから驚きだ。

依頼された資料づくりを通してノウハウを蓄積

伊勢領製作所の下保隆社長。
 伊勢領製作所は、機械加工による金属製品の生産を主な業務としている。当初は県内のアルミ関連の会社、工具関係の会社から金型や工具を受注。難削材や超硬合金の加工を得意とするようになり、後には特殊鋼・特殊合金製造大手の日本高周波鋼業(富山製造所)から金属加工を依頼されるようになった。
 同社にとっては、日本高周波鋼業からの依頼は転機をもたらすことになる。特殊鋼・特殊合金の加工は極めて難しく、それを通してノウハウを蓄積することになった。さらに幸運なことに、各種特殊鋼・特殊合金を機械加工する際のバックデータを取り、“最適な加工方法をマニュアル化してほしい”と依頼されたのだ。
 「部品とはいえ、特殊鋼や特殊合金は極めて値段が高く、加工前の材料段階で1個数百万円するものもあります。ですから、加工に失敗して材料を次々と取り替えていくことは極めて不経済で、加工法のマニュアル化が求められたのだと思います」
 下保社長は、日本高周波鋼業との取り引きの背景をこう推測する。そしてそのマニュアル化には、市販されている工具、加工機を使用するよう努めてきた。
 「マニュアルをつくるということは、それに沿って作業をすると、誰でも目的の加工ができるということです。ということは、特殊な工具や機械で加工するのではなく、一般的なものを使わなければなりません。既製品では加工不能という場合は、オリジナル工具の開発も行いましたが、それも相手先の了解を得、かつなるべく平易につくることができるよう工夫してきました」と下保社長は振り返るが、マニュアル化には相当の苦労もあったようだ。
 ただこの苦労は、思いがけない形で報われることになる。長年にわたって培ってきたノウハウが、平成16(2004)年に花を咲かせたのだ。


80tのタービン軸も正確に回転

三菱重工や東芝から贈られた認定工場の証書。
 その前年、当機構の取引設備支援課にIHIの部品加工部門から連絡が入った。ある特殊合金の加工を引き受けてくれる会社を探しているという。その時、「伊勢領製作所ならばその金属加工ができるのではないか」と判断して、IHIに紹介。これをきっかけに、平成16年1月から同社とIHIとの取り引きが始まった。
 ただその取り引きは、水戸工業を通じて行われることに。水戸工業は技術商社として定評のある企業で、本社(東京)の他に全国二十数カ所に営業所・出張所を展開。それぞれの拠点で重工長大から精密機器・IT機器などの大手メーカーと取り引きがあった。
 「水戸工業様の当社担当は、横浜営業所の方でした。その方が、全国の営業会議などで、『富山に難削材の加工が得意な会社がある』と当社のことを紹介されたようです。それで、他の営業所などからも声がかかるようになりました」(下保社長)
火力発電に用いられるガスタービン。この中心部にタービン軸が通る。下の写真は軸の一部で、これが20枚連結されて1本のタービン軸になる。
 その結果、水戸工業を通じて金属製品を納めるメーカーが増えてきた。それも先のIHIと同じく、三菱重工、東芝、日立製作所、神戸製鋼所、ニコンなど、日本を代表するものづくり企業ばかり。中でも三菱重工や東芝は同社の技術を高く評価し、認定工場として認めるまでになった。
 技術の高さを示す一例に、同社が三菱重工に納めている火力発電用のタービン軸ある。タービンの中心には1本の軸が通り、重さは約80t、直径約4.7m、長さ約12.5m。それは例えていうと、コイン数十枚を連結して1本の軸にしたようなものだ。
 それが発電所で組み立てられ、タービンの中央にセットされる。そして発電の際には、ローター軸(こちらも約80t)にドッキングして高速回転する。回転数は、1分間に約3600。連結やドッキングに若干のずれがあっても、また重心に多少のずれがあっても、タービン軸はブレて回らない。ブレると発電できないが、同社が提供してきたタービン軸は正確に、そして安全にまわり続けている。
 これはあくまでも一例だが、伊勢領製作所は水戸工業を通じて、タービン軸のような大型部品から精密機器などに使われる小型部品も提供するようになり、納材先の業種は幅広くなった。その結果、例えばリーマン・ショックで製造業の多くが稼働率50%前後で苦しんでいた時も、同社は不況知らずのメーカーから仕事の依頼を受け、通常どおり機械は動き続けたのである。


最先端プロジェクトへの参画もうかがう

昨年11月に導入したもので、タービン用のケーシングをつくる機械(TSS-40/67C)。液化天然ガスの火力発電所が見直されはじめ、タービン軸とともにケーシングの受注も期待されている。
 その伊勢領製作所。昨年の秋には工場の増設や新たな機械の導入し、生産体制の拡充を図った。
 「機械の発注は、リーマン・ショックの翌年にしました。この機械は、タービン軸の外側のケーシングと呼ばれる、一種の箱状の構造体をつくるもので、原子力発電用のケーシングをつくろうと思って導入したのですが、東日本大震災の影響で方向性が変わってきました」と下保社長はいう。
 ご承知のように、点検を終えた原発の再稼働は厳しい状況にあり、ましてや新設は現状では不可能に近い状態。一方、液化天然ガスによる火力発電所の新設や、石炭・石油からガスへと転換を図る火力発電所が増えている。同社が導入した機械は、火力発電用のケーシングをつくることに転用可能で、その使用方法を早くマスターしたいところだ。
 また同社は昨今、加速器への部材提供に大きな関心を寄せ、大手企業とともに国際的な研究プロジェクトへの参画に意欲を見せ始めた。
スイスとフランスの国境の地下に設置された「大型ハドロン衝突型加速器」。大手企業とともに同社はプロジェクトへの参画に手を上げており、認められれば2013年1月から本格的な実験が始まる。
 加速器とは、陽子や電子などの素粒子、原子核を加速する装置のこと。例えば加速器を応用した粒子線照射装置では、粒子を1秒間に地球5周分の速さにまで加速し、がんの患部に照射するとがん細胞のみを死滅させることができるという。
 加速器は、医療やエネルギー分野での応用が期待され、スイス・フランスの国境の地下では、全長26kmの「大型ハドロン衝突型加速器」が設置されて世界的なプロジェクトが始まった。そのプロジェクトへの参画を、大手企業とともに準備を進めているのだ。
 「こうした情報にいち早く接することができ、またプロジェクトへの参画の機会をうかがうことができるのも、水戸工業様のおかげです」と下保社長は語り、「私どもは水戸工業様の製造部門のようなものです」と続けた。
 「水戸工業の製造部門」と言い切るには、それ相応の覚悟が必要だ。どんな依頼があっても「そういう加工はできません」と言えるものではない。そのため下保社長は技術を持った協力企業のリストをつくり、いわば下請け企業の総力戦で大手企業の難しい要望にも応えてきたのである。
 多少のご利益もあったのかもしれないが、同社の40年に及ぶ発展を支えたのは、突出した技術と技術を持つ企業間の協力であった。

 連絡先/伊勢領製作所株式会社
 〒934-0037射水市片口久々江字錦799-26
 TEL 0766-86-2260 FAX 0766-86-1888
 URL http://iseryo.com

作成日2012.03.23
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