ニュースページトップへ戻る TONIOトップへ戻る
第23回 マルカサフーズ有限会社  

第23回 マルカサフーズ有限会社
 イワシ(鰯)の弱さに注目して商品化
 ブリ商品より大きく出世して…
  
某ビール会社のCMに使われて、人気に火がついたブリシャブ。ブリの冷凍化によって通年で味わうことを試みたのが同社。
 今回の取材先、マルカサフーズの笠井健司社長は、氷見の水産加工関係者があまりやらないことに積極的に取り組んできた。例えばそれは、氷見の寒ブリの冷凍販売と、カタクチイワシの商品化。鮮魚信仰の総本山のような氷見では、ブリの冷凍販売は“他宗派のすること”。またカタクチイワシの商品化も、“エサにしかならないものを、わざわざ…”と好奇の目で見られてきた。
 氷見の水産加工の既成概念にとらわれず、新しいことに取り組むことができたのは、笠井社長が他業種からの転職組だからかもしれない。なにしろ笠井社長、十数年銀行に勤め、うち7年はトレーダーとして国際金融の世界に身を置いた後で、水産加工の世界に転身してきたご仁。事務所にはビジネス経営・金融の本がずらりと並ぶ一方で、食品衛生、食品加工の専門書も幅をきかせていた。

食の専門家に選ばれて優秀賞に

カタクチイワシの唐揚げ。学校給食にも採用され、骨ごと食べることができる。
 氷見の寒ブリの冷凍販売については、そのビジネスプランは国に評価されて、地域資源活用プログラムに採択(平成20年9月)。冷凍技術の向上や販路拡大を目ざして、今もその取り組みは続いている。
 一方のカタクチイワシの件だ。従来カタクチイワシは、水揚げ量の大半が養殖魚のエサにされていたが、笠井社長はその利用を検討。5年前より、毎年数トンずつ仕入れて冷凍し、食品研究所(富山県農林水産総合技術センター食品研究所)のアドバイスを受けながら、加工品の開発を試みてきた。
 そしてたどり着いたのが唐揚げ。頭と内臓を取り除いたカタクチイワシに、下味、かたくり粉をつけて冷凍し、唐揚げにして食してもらおうという商品だ。
 「氷見イワシには『広辞苑』に載るほどの歴史とブランド価値があり、全国的にも知られています。そのイワシはマイワシがメインで、商品としては、だし用の煮干しになっていました。ところが丸々と太って脂がのったカタクチイワシは、脂によって酸化が進むため煮干しには適さず、また鮮魚ではアシが短いために、養殖魚のエサ以外の利用がなかなか進まなかったのです」(笠井社長)
 脂がのり過ぎて価値がないと判断され、養殖魚のエサにされるか捨てられていたカタクチイワシ。それを、発想を逆転させ、「脂を生かせば今までにない商品ができるのでは…」と商品化を試みたわけだ。
 実際この唐揚げ、食べてみても旨い。展示会等で試食していただいても評判が良く、平成21年2月の「地域資源セレクション2009」(東京ビッグサイト)で行われた、スーパーマーケット協会バイヤーズセレクションの優秀賞に選ばれたのだ。
 これには笠井社長本人も驚いた。年間600~700件の新商品が誕生して、バイヤーズセレクションに応募されてくる中で、同社のカタクチイワシの唐揚げが、食の専門家に支持されて優秀賞に輝いたのである。それ以後の販促に、力が入ろうというものだ。
 ところが間の悪いことに、冷凍ブリの商品化やPRが急に忙しくなってしまった。そこで唐揚げの販促は、1年ほど棚上げにせざるを得なくなったわけだ。そして時は移って平成22年4月。いつまでもカタクチイワシの唐揚げを棚上げにしておくこともできず、笠井社長は当機構に支援を求め、中小企業販路開拓マッチングコーディネート事業の支援を受けて本格的な営業に乗り出したのであった。


販路開拓マネージャーの熱意に押されて

「販路開拓マネージャーの熱心さには舌を巻きました」と1年の支援を振り返る笠井健司社長。
 支援に当たった販路開拓マネージャーは、元は40年近くにわたって商社で営業を担当してきた方。DMひとつ出すにしても、細かい配慮が行き渡り、笠井社長をうならせるのだった。
 「飲食店や総菜店、外食産業等にDMを出す際、相手先の会社名や部署名で出すのではなく、担当者のお名前を確認して、それを封書の表に書き入れるのです。そしてDMが着いて2~3日したころを見計らって、『いかがでしょうか…』と電話を入れ、『一度お目にかかっていただけませんか』とアポイントをとろうとする。簡単には諦めないその姿勢に、感服しました」
 笠井社長は、「送料・電話代をムダにはしない」という販路開拓マネージャーの意気込みに押された。DMを受け取った相手先も、マネージャーの熱意にほだされて、面談を受け入れてくれるところが何件も出始めたのである。
 また、こんなこともあった。ある市に、○○給食という企業と、○○市学校給食という事業所があった(○○は市の名称)。○○給食は企業向けに弁当をつくっている会社、もう一方はいわゆる学校給食の給食センターである。学校給食への新規参入は極めて難しく、食品業界ではそれは常識になっていて、笠井社長も学校給食にカタクチイワシの唐揚げが売れるとは夢にも思っていなかった。
 ところがである。マネージャーは違った。弁当をつくっている会社へ電話を入れたつもりが、勘違いから給食センターに連絡を入れ、面談のアポイントをとってしまった。「給食センターは無理だから…」と笠井社長がいっても、「せっかくアポイントがとれたのだからとにかく行こう」と意に介さなかった。そして2人で行って、ひとしきり営業トークをして試食していただくと、後日「採用」の連絡が入ったのである。


売上げが2.5倍に、さらに…

サッカーのナショナルトレーニングセンター「Jヴィレッジ」(福島県広野町・楢葉町)での、唐揚げ採用を報じる北日本新聞(‘10年11月28日)。当機構が首都圏に委嘱している販路開拓マッチングコーディネーターの紹介で、Jヴィレッジの総料理長に試食していただいて採用が決まった。

 この他にも、市を挙げて学校給食に採用になった例、Jリーグのトレーニングセンターで採用になった例、スーパーの総菜売場・飲食店で採用になった例など、販促活動を始めて半年後に、さまざまな成果が出始めた。
 「マネージャーは、食品業界の既成概念にとらわれず、営業先を次々とリストアップしてきて『今度はここへ行きましょう』とアポイントをとるのです。ですから、営業範囲が格段に広がり、実績も徐々に出始めました。昨年はカタクチイワシが不漁だったので、量の多いオーダーはお断りしたこともあります」(笠井社長)
 販路開拓マネージャーとの二人三脚を始めて1年。唐揚げの売上げは2.5倍に伸びた。漁獲量が安定したらそれはさらに数倍伸びて、“1億円商品”に育つのではないか、と社長は期待を寄せている。ただしこの場合も、あくまでも「氷見産」にこだわって事業を展開していくのだという。
 「カタクチイワシは、全国いくつもの港で水揚げされていて、そこでの唐揚げが出てくる可能性はあるでしょう。でも他産地のイワシにはブランド価値がないので、単なる値段で勝負になる。それに対して氷見イワシには物語がある。『広辞苑』に載るほど有名で、何よりこのイワシを追ってブリが富山湾の奥深くに入ってくる。氷見沖のカタクチイワシには脂がのっているから、ブリにも旨いのです」
 新しい商品を世に出す時は、“物語が必要”とよくいわれるが、笠井社長はそれをいっているようだ。


今度は福来魚(フクラギ)で!

福来魚屋本舗」で展開する同社のネット上のお店。
 カタクチイワシの唐揚げの販路開拓については上々の結果が出た。同社にとっては、主力商品に育ちつつあり、それに続く商品を開発したいのではないか。そのあたりのことを尋ねると「フクラギを売りたい」と答が返ってきた。
 フクラギ。ブリ(5歳魚~、体長80cm~)は出世魚で、フクラギはその2~3歳魚(体長40~60cm程度)。関東ではイナダ、関西ではハマチと呼ばれている。これを「全国で売りたい」というのだ。
 ではそのフクラギを使った商品開発、販促にどんな物語を描いているのか。
 「フクラギはEPAやDHAがブリより多く、熟成させるとアミノ酸量が増えておいしくなる。私はそれを福来魚として売っていきたい。福が来る魚と書いて、『ふくらぎ』。縁起のいい商品です。食品研究所等のアドバイスを受けながら、熟成方法を詰めているところです」
 そう語る笠井社長の表情は明るい。商品化のメドも立ち、販路開拓にも光を見い出しているようだ。
 「フクラギが、大きくなるとブリになる。フクラギを熟成させると福来魚になる」
 そんなコピーを口ずさみながら、全国を営業で回るのだろうか。ホームページ上で冷凍ブリをはじめとする水産加工品を販売するお店の名前も「福来魚屋本舗」にしているほどだ。その意気込みもわかるだろう。
 最後に笠井社長に聞いてみた。ブリを熟成させたらどうなるの?
 「もっと旨くなる。冷凍ブリも将来、その線で改善・改良していく予定です」
 どうやら会社もブリと同じように、出生(成長)していこうというのだ。

 連絡先/マルカサフーズ有限会社
 〒937-0022富山県氷見市地蔵町13-18
 TEL 0766-74-4433 FAX 0766-72-3636
 URL http://www.fukuragi.com/
 

作成日2011.06.30
Copyright 2005-2013 Toyama New Industry Organization All Rights Reserved.