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ヤマサン食品工業株式会社  

第10回 ヤマサン食品工業株式会社
“金の卵”がかえって若鳥に成長
支援の好循環が期待されるまでに…
 ヤマサン食品工業。山菜・野菜などの水煮商品をメインに製造販売する会社で、射水市黒河の本社の他に、全国6カ所に営業所を構える食品加工会社だ。
 創業は昭和3(1928)年。青果物小売商を営んでいた藤岡重作氏が、本業のかたわら黒河の特産である筍を缶詰にして売り出したことが始まり。43(1968)年には事業を拡大して、フキ、ワラビ、ゼンマイなどの加工品もつくるようになり、その後、加工する山菜・野菜の種類を徐々に増やしていった。
 同社の、長い食品加工の歴史の中で、商品として満足できないものがあった。大豆の水煮がそれだ。
 スーパー等で販売されているものを見ると、パッケージの充填液が濁ったように見えるものがあった。これでは消費者の購買意欲をそいでしまう。濁りの原因は、大豆からはがれた薄皮や、大豆から溶け出したタンパク質が固まってゼラチン状になったものが浮遊していたから。パッケージには「ゼラチン状のものは、大豆から溶け出たタンパク質が固まったものです。食べても健康上の問題はありません」と注意書きはあるものの、それに気づかない消費者からクレームがきたこともあった。
 またこれは見た目にはわからないが、加熱殺菌後に少し軟化が進み、大豆が軟らかくなりすぎるきらいもあった。
 これは、他のメーカーの商品でも見られた。ある意味、大豆水煮商品が共通して抱えていた課題で、それを抑えるために食品添加物の一種である塩化カルシウムを使っていた。
 消費者の、食の安全・安心への意識は高まる一方である。同社ではそのニーズに答えようと、食品添加物の使用量を減らす、あるいは使わない方向を模索しており、大豆の水煮もその対象に含まれていた。

長年の課題を支援事業で解決して…

支援事業を契機に生まれた新商品「富山県JAとなみ野産大豆」。
 ある時、ひらめいた。
 「“豆腐は、海水に含まれるニガリによって固められるが、海洋深層水を利用すれば、大豆の水煮が抱えるこれらの問題は解決できるのではないか”と、当時の研究開発室長が思いついたのです。豆腐は、もともとは大豆からできていますから、深層水に含まれるニガリ成分が薄皮の剥離やタンパク質の溶出を防ぐだろうと推論をたてたのです」
 水木亮氏(第一営業部次長)が、当時の資料にあたりながら答えてくれた。
 平成14(2002)年のことだった。その夏、同社では富山湾の海洋深層水を使って炊込みごはんの素を開発したばかり。そのパッケージに、富山県海洋深層水協議会が推奨する、深層水商品のブランドマークを使用するために、県の商工企画課を訪ねて手続きをしていた。その際、当機構の「新産業創出公募事業」(平成16年度「新商品・新事業創出公募事業」に改変)を紹介され、「富山湾の深層水を使った商品開発を支援する制度があります。今度はその制度を利用して、商品開発をしてみては…」と勧められた。
 同社にしてみれば、渡りに船のような提案だ。さっそく申請して、深層水を利用した大豆の水煮の改良に乗り出した。
 「富山県食品研究所の協力も仰ぎ、いろいろ試したようです。試作品ができ上がったのは、翌15(’03)年の2月。薄皮の剥離はなくなり、ゼラチン状のタンパク質も浮遊しなくなりました。また軟化が進む問題点も解決されて、ほどよい食感になりました」(水木氏)


売り上げは倍以上に

 バイヤーや食品スーパーの仕入れ担当者に試作品を見てもらうと評判になった。見た目がまったく違い、薄皮やゼラチン状のかたまりが浮遊していないだけでこんなにも印象が変わるものかと驚くほどだ。
 そして商品化して5月に売り出すとお客様の反応は上々(商品名「富山県JAとなみ野産大豆」)。バイヤーからは追加の注文が相次ぐようになり、スーパーの仕入れ担当者からは、「深層水の特徴を生かして、見た目や味、食感が差別化できる商品をつくってほしい」と要望が届くようにもなった。
「となみ野産大豆」からバリエーション展開した商品群(左)と平成24年度の新商品(右)。最近はサラダ感覚でそのまま食べることのできる商品が人気とか。
 「結局、1年をとおして商品の動きを見ていると、深層水を利用した大豆の水煮は、改良前のものに比べて倍以上の売れ行きを示し、一過性でないことがうかがえました」(水木さん)
 当然ながら同社では、深層水を利用した豆の水煮のバリエーション展開と、深層水を利用した新たな商品の開発に乗り出すことにした。
 バリエーション展開に関しては、「北海道産小豆」「北海道産黒豆」「国産五目豆」が続き、後にドレッシングをかけてそのまま食べることができる「国産サラダまめ」「ひじき豆」も登場。このサラダ感覚の豆も好評を博し「かぼちゃと豆」「さつまいもと豆」という新商品も先頃生まれたばかりだ。
 念のため付言しておくと、「となみ野産大豆」の水煮に続く7つの商品は、平成14年度の「新産業創出公募事業」で得られた知見をもとに同社が独自に開発した商品で、いずれにも富山湾の海洋深層水が利用されている。
大豆と里いもの加工現場を見学させていただいた。ちょうど収穫の時期で、次々にコンテナが搬入されていた。


里いも、栗などの新商品も登場

平成17,18年度の事業で商品化に至ったもの。里いもだけでも1億円の大台に乗った。
 一方の、深層水を利用しての、他の山菜や野菜の水煮商品の開発だ。ヤマサン食品工業では、平成17(’05)年度、18(’06)年度にも内容が充実した「新商品・新事業創出公募事業」(深層水分野)に採択され、17年度には里いも、栗、ゼンマイ、フキ、18年度には有機ゼンマイ、筍、大根、ごぼうの水煮商品の開発を試みた。
 実験等で良好な成果が得られ、商品化につながったものを中心に開発の目的、結果についての概略を述べよう。

 【里いも】
 むき身の里いもの保存には、冷凍加工された商品が多い。しかし、生の里いもを調理した場合と比べると、食感がぱさぱさしている欠点がある。またレトルト殺菌されたむき身の里いもは、本来のもちもち感は残り、常温での長期保存が可能というメリットはあるものの、軟化が進み、調理した際に煮崩れを起こしやすいという難点がある。深層水を利用してこれら問題点を解決し、商品化に至った。

 【栗】
 生のむき栗は、栗ごはん用に利用されている。しかし、皮をむくと急速に劣化が進み、消費期限が4日ほどしかないという保存性の問題がある。保存性を高める方法として、真空包装後にレトルト殺菌する方法もあるが、軟化が進みすぎて食感を落とすケースが多い。深層水の利用を通して、この課題を解決した。

 【ごぼう】
 ごぼうの水煮商品は、長期保存が求められる中でレトルト殺菌されるようになった。しかし軟化が進むため、食品添加物の乳酸カルシウムや塩化カルシウムを使用している。ごぼうの風味を残し、軟化を抑えるために深層水を利用し、商品化にこぎつけた。

 今まで述べてきた深層水の利用は、原水、ミネラル脱塩水とさまざま。利用のタイミングもそれぞれの加工法に合わせて行われ、それらの組み合わせを変えるなどして最適な利用法が探られた。
 ちなみに、ゼンマイ、フキ、筍、大根については、深層水利用による改善が見られなかったもの、わずかしか改善が確認されなかったものなど、食品の特性によって違いがあった。「改善が認められたものでも、深層水利用によるコストアップが、消費者に受け入れられるかなども勘案して、今のところ商品化を見合わせているものもある」(水木さん)という。

    

売る立場から、新しい商品の企画などを検討している水木さん。次なる計画も練っているそうで…。
 平成14(’02)年、深層水を利用しての商品開発に取り組んだヤマサン食品工業。公的支援で弾みをつけ、平成23(’11)年度には、深層水を利用した商品の売り上げが3億円を超えるまでになった。産学官の連携が生んだ金の卵が、孵化して若鳥に成長したといっていいだろう。
 「水煮商品に関しては、引き続き商品の改善に努めていきますが、今後は、まったく新しい分野も開拓したい。例えば調味料の分野とか…。その時にはまた支援事業のサポートを受けて、商品開発などに取り組みたい」と意欲を見せ、水木さんは取材を締めくくった。
 “金の卵”は何個でも生まれ、そこからかえったヒヨコが親鳥に成長し、今度は卵を産むための投資を支える側に回る。公的産業支援の好循環が起こることを期待するばかりだ。

 新商品・新事業創出公募事業
 http://www.tonio.or.jp/gijutsu/sinsyouhin.html

[ヤマサン食品工業株式会社] 
  ○所在地 本社 富山県射水市黒河3197 TEL 0766-56-4866 FAX 0766-56-1150
   URL http://www.yamasanfood.co.jp/

作成日2012.12.25
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