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ヘルスケア産業も富山の成長産業に

フェムテック製品にも注目が・・・

とやまヘルスケアコンソーシアム主催の「フェムテック
セミナー」を告知するチラシ。このセミナーでは女性
活躍推進のための支援施策やフェムテック市場の
最新の動向などが紹介された。

 「フェムテック」という言葉をご存じだろうか。各種メディアで散見されるようになっており、見聞きしている方も多いだろう。当機構でも昨年9月に「フェムテックセミナー」(講師:(株)日経BPコンサルティング取締役・中野恵子氏)を開催するなど、世相を映すキーワードのひとつになっている。
 「フェムテック」とはFemale(女性)とTechnology(技術)からなる造語。「生理や更年期などの女性特有の悩みについて、先進的な技術を用いた製品・サービスにより解決を図るもの」で、政府が令和3年に打ち出した「女性活躍・男女共同参画の重点方針2021」の中で、「フェムテックの推進」としてその「利活用を促す仕組みづくりを支援する」と謳われた。そして「同2022」では「さらなる推進」が表明されたことを機に、フェムテック製品の開発やサービスの提供に取り組む企業が増え始めたのだった。

とやまヘルスケアコンソーシアム設立

とやまヘルスケアコンソーシアム活動の様子。
年に数回、勉強会やセミナー、現場見学会などを
開催している(写真上)。写真下は、生活工学研究
所に導入された発汗サーマルマネキン。人間の
温熱特性と発汗作用を模擬的に再現する装置で、
公設試での導入は富山県のみである。

 富山県ではフェムテックの推進は、とやまヘルスケアコンソーシアムが中心になって展開していくことになるのだが、その経緯を繙(ひもと)こう。
 本県では平成31年に「新・富山県ものづくり産業未来戦略」を策定。今後成長が見込まれる分野として従来の6つの分野((1)医薬・バイオ、(2)医薬工連携、(3)次世代自動車、(4)航空機、(5)ロボット、(6)環境・エネルギー)に加えて、(7)ヘルスケアを新たな成長分野として位置づけ、重点的に推進していくことが確認された。
 そしてその年の12月には、介護施設等の現場環境の改善や健康増進のためのヘルスケア製品の開発を通じてヘルスケア産業を育成し、富山のヘルスケアのブランド化を図ることを目的に「とやまヘルスケアコンソーシアム」を設立。そのブランド化には国内の公設試では導入例が少ない「富山県産業技術研究開発センター生活工学研究所」の人間工学や人体生理に関する最新の測定装置を活用して感性や五感をデータで可視化し、数値により裏づけされた性能や効果をもとに製品開発を後押しすることとした。
 コンソーシアムの推進委員会には富山大学、富山県立大学、(一社)富山県機電工業会、(一社)富山県アルミ産業協会、富山県プラスチック工業会、(一社)富山県繊維協会の他、富山県厚生部・商工労働部、当機構が名を連ねた。その主な活動は、(1)産学官連携による新たなヘルスケア製品開発・新事業の創出支援、(2)コーディネート活動による地域の実状に応じたニーズ・シーズのマッチングや製品化へのサポート、(3)技術・市場動向などの情報提供(セミナー、勉強会、見学会等の開催)、展示会への出展などだ。ちなみに製品開発や市場調査など、活動の中核を担う「ヘルスケア産業研究会」の会員数は、令和5年12月末時点で企業・団体では80機関、個人105名にまで増えてきた。

ヘルスケア製品が続々と

県内企業のヘルスケア製品開発の様子。写真上は
高齢者見守りシステムの開発。写真下は足の裏の
荷重の分布を示した画像。分布を解析して歩き方
の指導を行う。

 コンソーシアムが支援した、製品開発の一部を紹介しよう。繊維関係のA社では、化粧の際の肌荒れ部分の保護やシミの被覆を目的に、ナノファイバー技術を応用して、模擬皮膚材の開発にチャレンジ。低刺激で蒸れにくい極薄シートを開発した。圧力センサの技術シーズを保有するB社では、医師や理学療法士が指導する歩行方法を、訓練中の患者が理解しやすくするために足裏荷重分布センサのシステム開発を行った。データはワイヤレスで送信され、リアルタイムで足裏各部に作用する荷重が表示され、歩行指導に即座に活かされるというものだ。繊維メーカーのC社は、介助者にかかる身体的負荷、特に下半身への負荷を軽減する介護服パンツを企画・制作した。ここでは生地に身体サポート機能を持たせるために、高伸縮性素材の開発から始めたようだ。また産業用カメラや画像処理装置を開発するD社では、介護老人福祉施設などで利用する高齢者見守りシステムを開発した。先行する大手メーカーの類似品は、センサ付きマットで呼吸、脈拍、体動を検知するものだが、D社は電波センサによる心拍、呼吸、体温、睡眠の検知の他に、カメラによる見守り機能も加えた上で、より安価になるよう試みているという。
 こうしてヘルスケア製品の開発が進められる中で、とやまヘルスケアコンソーシアムでは令和4年度から“フェムテック枠”を設けて、その推進を図ってきたところだ。支援の第1号は、繊維メーカーE社の冷え症を改善しつつも、ホットフラッシュ(ほてりや発汗)を防ぎ、しかもファッショナブルな付け裾ウエストウォーマー(腹巻)の開発だ。この開発には前出の生活工学研究所がサポートした。そして令和5〜6年度には、ベンチャー企業の(株)ハリイによる「髪を失った女性のためのスポーツウィッグの開発」を後押し。代表の池野順子さんは、「ものづくりが盛んで、創業時の支援が厚いから」と東京から富山に移住して、ウィッグの開発に挑んだのだった。

「自分でウィッグをつくった方が・・・」

ウィッグ の開発に至った経緯などを語る
池野順子さん。

 このハリイの取り組みを少し詳しく紹介しよう。
 東京の服飾専門学校を卒業した池野さんは、ファッションメーカーやスポーツ用品大手メーカーF社等を経て、小矢部市に本店のある(株)ゴールドウインの外部デザイナーとして業務委託契約を締結し、デザインを担当。平成30年の夏に突然髪の毛が抜け始め、ある大学病院に入院したのだった。
 池野さんが振り返る。
 「先生方の必死な治療にも関わらず頭髪のすべてを失い、数カ月後に赤ちゃんの産毛のようなものが戻ってきた程度でした。それで市販の医療用ウィッグを買い求めたのですが、とにかく使いにくい。その固定法は、左右のもみ上げあたりの2カ所で、両面テープでとめるだけ。これでは風が吹いた時、手で抑えないと飛んでいってしまうのです」
 そこで使いやすいウィッグを探し始めた池野さん。ゴールドウインの仕事は業務委託の形式を取っていたため自分で時間の調整ができることから、大手ウィッグメーカーのバックヤードでアルバイトとして働きながら、ウィッグについての知識を基礎から学んだのだ。
 最初は、ウィッグの扱い方などを知ることが目的であった。ところが既存のウィッグについて知れば知るほど、「自分でつくった方がいいのでは・・・」と思うように。前出のF社で池野さんは、アスリートのパフォーマンスを最大限に引き出すために、ウエアの素材開発に携わったこともあったが、期せずしてこうした経験が生かされ、素材の探索なども行った。そしてこれがさらに高じて、「新しいウィッグが開発できれば、ビジネスとしてやっていけるのではないか」と、起業への意欲が芽生えたのだった。

富山の各種の支援で商品化に

写真上は南砺市にある富山県産業技術研究開発
センター生活工学研究所の外観。令和元年に右奥
のヘルスケア製品開発棟がオープンした。写真下
は富山県創業支援センター/創業・移住促進住宅
SCOP TOYAMA(スコップトヤマ)。

 ただ、今まで会社経営について考えたことはなかった。そこで池野さんは、実家(東京都内)の近くにある中小企業大学校(中小企業基盤整備機構が運営)で開催されていたアクセラレータープログラム(会社経営に必要な知識などを修得するための講座)を受講(令和3年10月〜4年3月)。それと並行して、具体的に製品開発が進めやすい地域はどこかとネット検索を進めていくと、富山県と関西のG県に絞られてきたという。両県ともに創業時の助成や資金調達の優遇策などがあり、池野さんにとっては魅力的だった。
 決定打となったのは、富山県が県を挙げて創業時の産業支援を行い、豊富な支援メニューをそろえていること。それらに申請したところ、ハリイはいくつも採択されたのだ。
 まずは当機構の「とやまUIJターン起業支援事業」(令和4年度)に採択されて、移住や創業時の諸費用の助成を受けた他、富山県が推進する成長企業の発掘・支援に向けたスタートアップエコシステム形成プロジェクトの「T-Startup」企業に選定されて、県の全面的な支援を受けることになった。「T-Startup」担当の県職員からは、南砺市にある生活工学研究所を紹介され、その素晴らしさを実感したという。
 また富山への移住に際しては、富山県創業支援センター/創業・移住促進住宅(通称SCOP TOYAMA:スコップトヤマ)への入所を果たし、創業初期の住まいとオフィスを確保。さらには令和5年度には、当機構の「ヘルスケア産業育成創出事業」(フェムテック枠)に採択されて、ウィッグの開発は加速されることになったのだ。

     

今年の秋ごろには市場へ!

T-Startupのホームページより。令和4年に選定
された企業の皆さんと新田富山県知事(写真上)。
池野さんがクラウドファンディングでウィッグ開発
の支援を求めた際には、SCOP TOYAMAも全面
協力したところ(写真下)、目標の250%を短期間
で達成することができた。

 「T-Startupのサポート企業である(株)ロフトワークはクリエイティブなことに長(た)けていて、“クラウドファンディングで開発資金を募りたい”という私の思いを受け止めてくれて、商品の写真やコピーライトの準備の支援もしてくださり、次から次に事業化への布石を打ってくれました」(池野さん)
 その結果、クラウドファンディングでは目標の250%の金額を達成することができた他、「ヘルスケア産業育成創出事業」に採択されたことで富山高等専門学校と東北大学の協力を得ることができ、3Dモデリングや人工血管などの技術に関わる教授の助言のもと、フィット感のよいウィッグの開発を加速させたのだ。
 開発はどの程度まで進んでいるのか。そのあたりを池野さんに尋ねると、
 「私が理想としている形からすると、今は8割くらいまできています。令和6年の秋ごろを目標にし、販売を始めたいと思います」
 と返ってきた。
 脱毛症で大学病院に通う前、池野さんはハワイアンダンスやサーフィンを趣味にしていたという。ところが発症でそれらは棚上げに。このスポーツウィッグで池野さんは「日常を取り戻し、同じ悩みを持つ女性に希望を届けたい」と目を輝かせた。

○問合せ先
所 在 地:高岡市二上町150 富山県産業技術研究開発センター 技術開発館2F
      (公財)富山県新世紀産業機構イノベーション推進センター ヘルスケア担当
TEL0766-24-7112  FAX0766-24-7122

URL : https://www.tonio.or.jp
URL : https://www.tonio.or.jp/health

作成日  2024/03/21

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