第52回 株式会社ハリタ冷蔵 海外バイヤー招へい商談会  富山県産食材×ジャカルタ市内レストランコラボフェア【TONIO主催】  TONIO Web情報マガジン 富山

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第52回 株式会社ハリタ冷蔵

魚津の漁業、水産加工業を元気に
海外の市場から刺激を受けて

地域の漁業や水産加工業などの将来を見越し、
改善策を試みる鍼田隼平社長。

 「富山湾産のカニやブリを海外へ」
 いきなりこういわれると、「何を突拍子もないことを」と思われるだろうが、これは(株)ハリタ冷蔵の鍼田隼平社長が、「平成」の終わり頃から漠然と考えてきたことだ。魚介類の国内消費が伸び悩む中で、漁師や水産加工業の後継者不足が重なり、漁業や水産加工業の行く末に不安を感じたことから、海外の市場を視野に入れ始めたのであった。ただ、当初はまだ漠然としたもので、年を重ねるごとにその思いは現実味を帯びてきたのであった。
 地元・魚津を拠点にして海産の乾物を長く扱ってきた同社。先代社長(現社長の父親)の時代に冷凍魚の卸売業に乗り出し、その昔、町にあった小さな食品スーパーや魚屋、すし屋、飲食店などに魚を卸していた。市場(いちば)での購買権は持っていたが、地元で鮮魚を買いつけることは少なく、冷凍ものをメインに扱っていたという。
 「平成の中ごろまではそれで十分にビジネスが成り立っていました。ところが小さな食品スーパーは、チェーン展開する大手資本のスーパーに取って代わられ、そこへの卸ルートを確保しようとすると、大手の卸売業者以上に安い仕切り値を提示しなければなりません。地場の業者にはそれは土台無理な話で、その結果、販路を少しずつ失ってきたわけです。ただそれも、平成30年ころまでが限界で、将来を見越して路線転換しなければならないと思いました」

カニのむき身が窮地を救った

冷凍魚の流通をメインにしていたところから、
自社商品をつくり、小売店で販売も始めた。初
期に商品化したカニのむき身(写真上)と冷凍
ます寿司(写真中)。のちに商品の品ぞろえを
豊富にし、本社横の小売店(写真下)で販売し
ている。

 そこでハリタ冷蔵がとったのは、経営者の交代と業容の拡充である。経営者の交代は、当時、社長を務めていた父親と話し合い、次男(現社長)への事業承継(平成30年)を進めた。業容の拡充は、水産加工品をつくってメーカーになることと、自前の店舗をつくってそれら商品を売り、またECサイトを整備して、全国の消費者にも販売していくことだ。第一次産業の六次産業化とよくいわれるが、加工(二次)を新たに加え、流通には小売(三次)も行うようにして事業を拡充し、会社の生き残りを模索したのだった。
 地元の漁業関係者、仲買関係者、水産加工業者やその販売関係者からは、「あそこの若社長、何か変わったことを始めた・・・」と見られたそうだが、令和2年のパンデミックがものの見方を一変させた。
 鍼田社長が振り返る。
 「新型コロナウイルスの蔓延により、飲食店が営業を自粛しました。私たち卸売業界では、どの企業も大幅に売上げを減らし、弊社の場合は7割減程度でした。従業員を18人抱えていましたから、『1年先にはウチの会社はなくなっているだろう』と腹を括りました。のちに飲食店は徐々に営業を再開させましたが、取扱高はなかなか元には戻りません。そんな中、窮地を救ってくれたのは、店舗での小売りとECサイトでの通販でした」
 売れ筋の商品は、カニのボイルとむき身、そしてます寿司だった。それを機に、鍼田社長はより多くの消費者の心をつかむため、商品ラインナップの拡充を考え始めた。
 ただ、カニにまつわる事業は混迷を極めている。北陸新幹線の金沢までの開業によりカニの需要は高まったものの、水揚げ量は激減。その結果、浜値の相場が高騰し、中小の卸売業者は大手に立ち打ちできなくなりつつあるという。
 「極端な言い方をすると、県内ではカニはもらうもの、というイメージが根強いのです。豊漁の時には、知り合いの漁師さんからいただく。富山にはおすそ分けの文化がまだ少し残っています。ところが、カニの産地でない地域では、カニは買うもの、水揚げ量が減っているのなら値段は上がるものというふうに理解してくれます。大手は高値で買い付けても、販売ルートを持っていますが、私ども地方の中小の卸売業者にはそのネットワークがありません。そこでネット販売を通じて消費者を探してきたわけです」(鍼田社長)

海外のバイヤーと話して大きな収穫

令和2年の「海外バイヤー招へい商談会」の様子。

 ではいつから鍼田社長は海外の市場に目をむけ始めたのか。
 そのきっかけは、当機構が富山県の支援を受けて開催している「海外バイヤー招へい商談会」(令和2年度)に参加したことから。この時は急速冷凍したカニのむき身をサンプルとして持ちこみ、そもそもどのような海産品、海産加工品が輸出商品になり得るのかの情報収集から始めた。
 「複数のバイヤーにお目にかかり、開口一番にいわれました、『海外ではカニのむき身は好まれません』と。そこで商談は終了です。商談会参加に当たって、勉強不足だったことを痛感しました。ただ時間が余りましたので、どういう商品なら輸出の可能性があるかを尋ねたところ、現地の食文化や日本食の人気などを紹介しながらいくつかのアドバイスをいただきました。それをうかがって、まずは商品開発を進めて品ぞろえを豊富にすることが先決、ということがわかったのです」(鍼田社長)
 「商談は不成立でしたが、大きな収穫があった」と鍼田社長は同商談会を評したが、その翌日から商品開発に熱心に取り組むように。ます寿司のバリエーションを増やすとともに、昆布じめや塩麹漬などの加工品を相次いで開発して商品数も増やし、店舗を拡充して店頭販売の強化とネット通販の市場に投入したのだ。
 鍼田社長にとってのコロナ禍の3年間は、水産業の“五次化”に向けた足場固めの時、雌伏の時だったといえよう。そして令和5年度に入って当機構より、「富山県産食材×ジャカルタ市内レストランコラボフェア事業」の案内を同社にしたところ、鍼田社長は「商品の品ぞろえも増えたので、ぜひ参加したい」と名乗りを上げたのだった。
 インドネシアのジャカルタは、ASEANの主要都市の中でも有数の巨大市場を持ち、日本食の人気は極めて高い。ジャカルタ市内だけでも400軒以上の日本食レストランがあり、メニューに商品を用いてもらって消費者の生の声を確かめつつ販路開拓を行うことが可能だ。このコラボフェア事業ではそれを狙った。ただインドネシアへの輸出のハードルは高く、アプローチしながらも断念する日本企業が多いのだが、今回は必要な認証の少ないBtoBでの販売を中心に、現地の飲食業界に詳しい方にコーディネーターとして加わっていただき、商談がスムーズに運ぶようアドバイスもしていただいた。

六次化に挑戦、海外マーケットを刺激に

「富山県産食材×ジャカルタ市内レストランコ
ラボフェア事業」でのジャカルタ市内のレスト
ランで開かれた商談会の様子(写真上)と、現
地記者から取材を受ける鍼田社長(写真下)。

 「私がジャカルタに行く前に、コーディネーターのお一人が富山にこられる機会がありました。その時、弊社の商品を紹介するだけでなく、県内の道の駅などを訪ねて水産加工品の売場などを見学し、『今、ウチではこれは商品化していませんが、つくろうと思えばつくれます。生産のロットなども調整できます。こちらは今すぐにはつくれません。』などと案内しました。コーディネーターは写真を撮っていましたが、ジャカルタの商談の場ではそれを資料として活用されていました」(鍼田社長)
 商談会が行われたのは、令和5年12月だ。ハリタ冷蔵では同社が扱っている水産加工品のほかに、氷見の寒ブリ、アジやサバのひらきなども商談の俎上に乗せることができたが、この取材の時点(6年1月下旬)では「商談継続中」(鍼田社長)ということだった。
 鍼田社長が続けた。
 「実は前に、輸出食品のフェアのようなイベントがあり、冷凍ます寿司を出品したことがあります。ただその時は、弊社の冷凍ます寿司がどのように紹介され、消費者やバイヤーの評価はどうだったのかについての情報はもらえませんでした。ところが今回のジャカルタでの商談やバイヤー招へい商談会では、商品に関する感想を直に聞くことができ、取扱い者としては貴重な意見を聞くことができました。今後も機会があれば参加したいと思います」
 視野が広がってきた鍼田社長は今、“五次化”から“六次化”への夢を抱いている。つまり漁師となって魚介類の水揚げをしたい、と。それも漁業権を持って、自分の船で漁がしたいのだという。
 「私の場合は、流通から加工へと、さかのぼる形で漁業活性化のお手伝いができればと思ってやってきましたが、生産の場も元気になって欲しい。その六次化に海外のマーケットが刺激を与えてくれて、互いに発展できたらいい」
 鍼田社長は最後にこう抱負を述べたが、これが「突拍子もない」ことではないことは、ここまで読んでくださった読者の皆さんにはご理解いただけるのではないだろうか。

 

連絡先/株式会社ハリタ冷蔵
〒937-0057 魚津市港街5-18
TEL 0765-22-0172
FAX 0765-24-9480
URL  https://www.harita-reizou.co.jp

作成日  2024/02/29

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