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株式会社北熱  

第2回 株式会社北熱
新発想 モリブデンが金型をかえる
~モノづくりだけでなくヒトづくりにも貢献~

北熱本社。同社ではコーティングの他に真空熱処理、窒化処理、機械加工、表面分析なども行う。
 自動車および電子機器は年々軽量化し、アルミニウムの採用や炭素鋼素材の薄肉化の傾向が顕著となっている。しかし、薄肉化は成型時の焼付き(摩擦熱で金属の一部が溶けて付着する現象)による摩耗欠損等の問題を抱えており、金型の耐摩耗性・耐焼付き性の向上は業界にとって大きな課題となっていた。
 株式会社北熱は平成18年度より戦略的基盤技術高度化支援事業「製品の複雑形状化・高精度化・微細化及びハイサイクル生産に対応する金型及び成形技術の開発」(委託者:中部経済産業局、事業管理者:富山県新世紀産業機構)の採択を受け、株式会社ギフ加藤製作所(岐阜県岐阜市)、三晶技研株式会社(富山市)、国立大学法人富山大学(富山市)、国立大学法人名古屋工業大学(愛知県名古屋市)、富山県工業技術センター(高岡市)とともにこの課題に取り組み、耐摩耗性・耐焼付き性に優れる金型保護膜の開発とその膜の鍛造・鋳造による実証試験を行った。
 その結果、窒化チタンとモリブデンから構成される耐焼付き性、耐摩耗性、躍動性、耐溶着性(離型性)の多方面に優れた金型保護膜(スムースMX)の開発に成功。深穴成形(パンチ径18mmの自動車用ブレーキシリンダ)の実機鍛造評価では、95,000ショットと従来比約4倍の寿命向上効果を確認した。また開発膜スムースTXについてもダイキャスト成型時の湯流れ性改善効果が確認され、製品平均肉厚0.5mmの薄肉化に成功した。

マシンを導入して一から技術を学ぶ

新しいコーティング膜の開発にあたって中心的な役割を果たした政誠一さん(同社常務)。
 もともと北熱はアルミ押出金型の熱処理を行う会社として、昭和52年に設立された。業界ではまだ歴史が浅い。設立当初は、高度成長期ほどの経済の活況はなくなってはいたものの、景気は右肩上がりの基調を保ち、アルミ建材の金型の熱処理を中心に業務の拡大が可能ではないか…との目算があったようだ。
 ところが年号が平成に変わったあたりから景気が曇り始め、特にバブル崩壊後の建築不況は、津波となって関連業界にも襲いかかってきた。当然、その影響は同社にも忍び寄り、建材の押出金型の熱処理だけでは、経営が苦しくなってくることは自明であった。そこで自動車や電子機器などの部品金型の表面処理や表面改質にも乗り出したのである。
 「まずはコーティング装置一式を購入し、スタンダードなコーティングができることを目指しました。そして金型で部品を成形している企業に売り込みに歩いたのです。ところが後発の会社ゆえにどこも相手にしてくれません。独自の技術があるわけではないので、サンプルを渡しても採用にはならない。そもそも何が問題で不採用なのか、そこがわからなくて苦労しました」(政さん)
UBMS-S装置(コーティングするための機械)の内部でスムースMX が施されているところ。
 自動車部品のメーカー数社から受注したものの、他にはなかなか広がらない。それでもサンプルを渡しながら営業で歩いていると、自転車メーカーから問い合わせが…。「今使っているDLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)のコーティングに満足しているわけではない。アルミともっと親和性のない膜はできないものか」というのであった。また、鍛造用金型に一般的に使われているTiN(窒化チタン)、TiCN‐G(炭窒化チタン)、TiAIN(窒化チタンアルミ)、CrN(窒化クロム)などの膜にも、満足していない企業があるという情報も把握。後発メーカーとしては、小ロットのコーティングでも、顧客ニーズにテーラーメイドで対応できるようにしようとの方針も定め、新しいコーティング膜を模索し始めた。


連携体制づくり

政さんとともに新しい膜の開発に中心となって取り組んだ嶋村公二さん。働きながら博士課程に在学中。
 そんな時、県の工業技術センターで、レーザー照射による金型表面の改質実験をしていたところ、「戦略的基盤技術高度化支援事業という技術開発を支援する新しい事業が始まるけど、膜の開発で応募してみないか」と誘われたのである。
 すでに同社では、高岡短期大学(現富山大学)や富山大学と共同して、コーティング膜の長寿命化やマグネシウムダイキャスト用の膜の開発に取り組み、また鋳造部品メーカーの協力を得て、実機評価を試みた経験はあるものの、これまでの共同研究や連携は、同社と大学または部品メーカーとの個別のものであった。事業を提案するにあたって、新しいコーティング膜を開発するためには、これらを横断的に結びつけ、また鋳造だけでなく、鍛造にも向くコーティング技術を開発しようと、工業技術センターの協力の下、ギフ加藤製作所や名古屋工業大学に呼びかけ関係者の合意を取り付けた。
 そして北熱とギフ加藤製作所が共同の申請者になり、共同研究者と合わせ6者の連携事業として提案し、採択されたのである。
蛍光X線方式膜厚測定器を操作する山口絵美さん。今回の事業では、コーティング膜の物性評価を主に担当。
  同社ではさっそく、新しい膜の開発に取り組んだ。原理を簡単にいうと、真空状態のプラント内に窒素やメタンなどの反応ガスを注入するとともに、コーティングする物質を原子レベルで叩き出し、反応させながら被コーティング物の表面をまんべんなく被膜しようというもの。専門的にはスパッタリング法というが、緻密で密着性の高い硬質膜が得られ、代表的なものにDLCや窒化チタンがある。この研究では、まずベースとなるコーティングを選択し、次いで金属と親和性のない機能物質を積層・混合することで機能膜を開発しようとした。そこで問題なのは、ベースと機能物質の組み合わせであった。
 「当初、窒化チタンとボロン(ホウ素)の組み合わせを考えていました。ボロンは金属との親和性が極めて悪いため、他の金属が焼き付くことはありません。ところがあまりにも親和性が悪いため、スパッタリングでベースの窒化チタンに積層・混合しようとしても、結合しないのです。それでいろいろなベースと機能物質の組合せを試しました。」(政さん)


長いトンネルの先に…

95,000回のパンチングに堪えた金型と成型品(ブレーキシリンダ)。金型の表面にはスムースMXのコーティングが施されている(厚さ3μ)。
 窒化チタンとの組み合わせが試みられたのは、ボロン(炭化ボロン)の他にアルミナ、酸化ケイ素、ジルコニア、モリブデン等々。中には有望な組み合わせもあったが、金型表面に均一にコーティングできない、金型のエッジの部分だけコーティングできない、耐熱性はあるが密着性が弱いなど、欠点があった。試行錯誤を重ねながら、なかなかゴールが見出せず、政さんをはじめとする嶋村公二さん、山口絵美さんら開発スタッフは、例えるならば長いトンネルの中にいたのである。
 そして開発を始めて1年半ほどが過ぎようとした昨年の夏のこと。チタンとモリブデンをある比率によって組み合わせることで従来比4倍近い長寿命化を実現。95,000回のショットが再現性のあるものかどうかを繰り返し確認し、また実用化に向けて5~30mm径の深穴成形パンチでの試作評価も行った。
 「こうして新しいコーティング法を開発してみると、“やっぱりモリブデンだったか”と思います。モリブデンは潤滑性に優れることは誰もが承知しながら、実用上の密着性と硬さの両方を兼ね備えた膜の開発には成功していなかったからです。」
 と感慨深気に政さんは語る。また鋳造実機評価についてもダイキャスト成型時の湯流れ性改善効果が確認され、製品平均肉厚0.5mmの薄肉化に成功した。
 開発した新しいコーティング膜については昨年度より実用化の検証が行われ、本年8月よりコーティングサービスを開始。「スムースMX」(鍛造金型向け)「スムースTX」(鋳造金型向け)と名付けられて金型メーカー他に積極的に営業展開するように。生まれたばかりの“金の卵”が会社にとってのお宝を生む金の親鶏になることを期待したいところだ。

   

 さて、同社にとってもう一つの成果は「嶋村さんと山口さんが、自分たちで課題を見つけ、仮説を立て、高度な分析機器を使いながら検証していくまでに育ったこと」(政さん)である。現在、嶋村さんは金沢大学社会人博士課程に在籍し、同大学との共同研究に取り組んでいる。また山口さんは同社で本年度採択された同事業「電子ビーム微細溶融加工による医薬・医薬部品用金型の表面処理技術の開発」では中心となって研究開発を進めている。

[株式会社北熱] 
  ○所在地 本社 富山市高木西115 TEL076-436-1431 FAX076-436-1432
   URL http://www.hokunetsu.com/
  • 戦略的基盤技術高度化支援事業について
     経済産業省中部経済産業局 モノ作り基盤技術(サポーティング・インダストリー)
     http://www.chubu.meti.go.jp/kikai/kiban.htm

作成日2009.12.22
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